MLB Column from USABACK NUMBER

スタインブレナー倒れる。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2004/01/05 00:00

 クリスマス休暇は、野球ライターにとっては「ネタ枯れ」の一週間でもある。各球団のフロントだけでなく、選手の代理人(エージェント)も一斉に休みを取るので、契約/トレード交渉はピタリと動きを止めるからだ。野球記者も、どこにも「抜かれる」心配がないと安心して休みを取るので、新聞のスポーツ欄を開いても野球の記事はどこにも見あたらなくなる。毎回、フレッシュなネタを読者に提供しようと苦心している野球コラムニストにとっては、一年でも一番ネタ探しに苦労する時期となるのである。

 記者が休みを取れば、球団の広報係の仕事も暇になる勘定で、広報係がクリスマス休暇に仕事を休んだからといって、普通は誰も問題にしない。「普通は」と断ったが、ヤンキースのオーナー、スタインブレナーがからむと、話が「普通」では済まなくなるのが「普通」だからだ。彼は、'95年のシーズンオフに、チームの広報責任者ロブ・ブッチャーを、「クリスマスに休暇を取った」という理由で解雇したことがあり、そのあまたある理不尽な首切りの中でも、これほど評判が悪かった首切りもなかった。

 というのも、米国人にとって、クリスマスとは、他人のことを思いやったり、困っている人を助けたり、一年の中でも特別に博愛精神を発揮すべき時期であり、よりによってクリスマスという特別の時期に、何の咎もない従業員を解雇して路頭に迷わせるような行為は、極悪非道としかいいようがなかったからである。さすがにばつが悪かったのか、スタインブレナーは、新年になって「解雇を取り消してもいい」と申し出たが、ブッチャーは、きっぱり復職を拒否したのだった(今は、レッズの広報責任者をしている)。

 「憎まれっ子世にはばかる」というが、スタインブレナーには「殺しても死にそうにない人」というイメージを抱いていただけに、昨年12月27日に、彼が葬儀出席中に倒れて病院にかつぎ込まれた、という報を聞いたとき、私は、本当に驚いた(幸い、翌日には元気に退院した)。驚くと同時に、「ネタのないときのスタインブレナー頼み」で、これまで数え切れないほど彼のことをコラムに書いてきた私は、「スタインブレナーももう73歳、彼にもしものことがあったら、大リーグが淋しくなる」と、思い知らされた。人間性に色々問題があるとはいえ、スタインブレナーという特異な個性の存在があるからこそ、レッドソックスとヤンキースのライバル関係が一層面白いものになっているのだということを、痛切に再認識させられたのだった。

 スタインブレナーの回復を祈願して、私は、彼に見舞いのカードを送った(署名は「一レッドソックス・ファンから」とした)。クリスマスとは、博愛精神を発揮しこそすれ、「ヤンキースとスタインブレナーには積年の恨みがある」などと狭量な態度を取るべき時ではないからだ。そして何よりも、クリスマス休暇の「ネタ枯れ」期間に、またまたネタを提供してくれたスタインブレナーに、コラムニストとして感謝しなければならなかったから……。

■関連コラム► スタインブレナーからの礼状。 (04/02/02)
► ヤンキースでもっとも大切な右腕。 (04/08/24)

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