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目指すは打倒中日。田上秀則の再生物語。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2006/09/28 00:00

 小久保裕紀(巨人)、井口資仁(ホワイトソックス)、城島健司(マリナーズ)と、次々に主力を放出してきたソフトバンクホークス。穴を埋めるために頼ってきたのは、他球団を解雇された選手たちだ。

 話は、補強費が満足に使えなかったダイエーホークス創成期までさかのぼる。監督や球団社長を務めた根本陸夫は「ドラフト1位の選手は、クビになっても一度はスカウトが評価したのだから何かいいものがあるはず」という考えの持ち主だった。そこからこのやり方が生まれた。

 伝統は今も受け継がれている。王貞治監督は「一度野球を奪われた人間は、悔しさや寂しさを知っているから必死さが違う」と言って、他球団を干された選手たちに進んでチャンスを与えた。それで昨季は宮地克彦がレギュラーを奪い、今季は田上秀則が這い上がってきた。

 捕手として中日に入団し、4年目に戦力外通告。トライアウトでソフトバンクに拾われた田上が、チャンスを得たのは交流戦だった。6月1日、スタメンマスクをかぶると横浜・三浦大輔からプロ初本塁打を放つ。以降、ボールに食らいつく姿勢を買われ、出番が増えた。鳴り物入りで入団した江川智晃や松田宣浩がきれいなヒットを打つ中で、田上は形に捕われない、グチャグチャなヒットに人生を賭けた。

 福岡ヤフードームでは、一番早く球場入りして、一番遅く家路に就く。「クビになった時、少しでも長く野球をしていたいと本当に思った。だからそれを実行しているだけ」と言う。研究も怠らない。和田一浩の打撃練習を、ネット裏の管理人室からこっそり見つめる姿を何度か見た。そんな田上を、金森栄治打撃コーチは「正しい努力をしている結果」と評価している。

 最初は捕手として起用され、一時は三塁コンバートも検討されたが、今や押しも押されもせぬ3番DHに定着。「ボールを引きつけて叩く方が強い打球が打てる」という金森コーチの教えを守り、徹底して右を狙う。「得点圏で打席に立つ方が燃える。走者を返すのが自分の役目」と、クリーンアップの自覚も出てきた。

 田上は言う。「日本シリーズの相手が中日だったら、もっと燃えます」。一度死を見た男は、いま、必死に戦っている。

■関連コラム► リストラ男の意地がある! ソフトバンク・田上秀則の覚醒。 (09/08/10)
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