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「お姉ちゃんを抜いてほしいですよね」マルガが継承する白毛と姉・ソダシの物語《デビュー戦勝利後、鞍上の武豊がつぶやいた言葉は?》

2025/10/10
この夏、新米女優の出現にアイドルホース再誕の予感が漂った。稀代の名牝と謳われた姉と同じ舞台でのお披露目を迎えると、ファンからの脚光を浴びる馬群の「白一点」の宿命も背負った。彼女らを支える名プロデューサーが、自ら施す演出を明かす。(原題:[白毛の継承者]マルガ「姉と違わぬ輝きを」)

 アイドルだって、きっと癒やされたい。

「今日もよく頑張ったねえ、マルガ」

 朝日に白む馬房から、幼子をあやすような声が聞こえてきた。

 その名を呼ばれ、まるで白無垢をまとったようなサラブレッドが顔を出す。頰を寄せ、両目を閉じ、撫でられるがままだ。

「女の子はすごいよ。競馬が終わった次の日とか全然態度が違う。怒って耳を絞ってね。『なんであんなきついことさせたの』みたいな。だから『ごめんごめん』って」

 いかつい顔を跡形もなく崩してじゃれるのは、調教師の須貝尚介だ。隣から嫉妬するように見つめていた牝馬に気づくと、また甘い声色でなだめにかかった。

「馬も何かを伝えたいんだよね。みんな喋れないしさ」

 国内外でGI17勝(地方含む)を挙げる59歳は、時間を惜しまずに愛馬たちの機嫌を伺う。実績でも毛色でも差別はしない。

「馬も何かを伝えたいんだよね。みんな喋れないしさ。それを行動で表現するわけでしょ。噛まれながらでも、辛抱強く遊んでたら慣れてくる。けっこう噛まれるけど……。時計も何個も壊されたし、ジャンパーもボロボロになった。でも、虎とかライオンじゃないから。痛いのは一瞬だもん」

 腕時計を破壊された逸話は、マルガにとって5歳上の姉にあたるソダシの仕業だ。2020年の阪神ジュベナイルフィリーズで白毛として世界初のGI馬になったヒロインは、見かけによらずおてんばだった。

須貝尚介 Naosuke Sugai 1966年6月3日生、滋賀県出身。父・彦三も元調教師。'85年に騎手デビュー。JRA通算302勝。'08年に引退して調教師に。'09年に厩舎開業。'12年ゴールドシップの有馬記念や'13年ジャスタウェイの天皇賞・秋などGI勝ち多数 Miki Fukano
須貝尚介 Naosuke Sugai 1966年6月3日生、滋賀県出身。父・彦三も元調教師。'85年に騎手デビュー。JRA通算302勝。'08年に引退して調教師に。'09年に厩舎開業。'12年ゴールドシップの有馬記念や'13年ジャスタウェイの天皇賞・秋などGI勝ち多数 Miki Fukano

 出逢いは'19年秋の北海道。清らかな1歳馬に一目で惚れた。

「あんなにきれいな馬を預けていただいて……。金子(真人)オーナーには本当に感謝しました。これだけのアイドルが来たら、プロデューサーみたいに『じゃあ、どうやって輝かせてあげようか』と。それはもうすべての馬に、まず考えてあげないとね。人様の財産を預かっているので」

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photograph by Miki Fukano

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