2013年の秋、須貝尚介のもとに1通のメールが届いた。差出人はオーナーの金子真人で、1頭、預かってほしい馬がいるという内容だった。
それまで金子との接点はなかったが、須貝が厩舎を開業したばかりのころ、せりの会場や競馬場で会ったときにあいさつしていた。「まだ若手ですが……」と渡した名刺のアドレスに、金子が連絡してくれたのだ。須貝厩舎のゴールドシップやジャスタウェイが活躍していたときだ。
「最初、メールが来たときはうれしかった。あのディープインパクトの勝負服ですよ。だれもがあこがれますよ」
須貝はきのうのことのように言った。
須貝尚介は二世調教師である。父の彦三は騎手時代に「四白流星の貴公子」として人気を博したタイテエムで春の天皇賞に勝ち、調教師としても名障害馬ファンドリナイロや地方出身のヒカリデユール(有馬記念)、カズシゲ(高松宮杯)などを育てた。父の厩舎で騎手になった須貝は23年間で302勝(重賞4勝)という成績を残し、'08年3月に調教師試験に合格すると同時に騎手を引退している。
「自分は体重でも苦労したし、怪我も何度もしたので、ずっと調教師になろうと思ってました。でも、いまの自分があるのは、反面教師でもある親父のおかげかな」
「反面教師」となった父はどんな人だったのかたずねると、須貝は「言いたくない」と笑った。
'09年に厩舎を開業した須貝はすぐに結果をだす。4年めには46勝をあげてリーディングの6位に躍進し、ゴールドシップらの活躍で重賞も9勝(GI4勝)した。金子からメールが届くのはその翌年のことだ。
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