天性のスターホースの源流を追って北の大地へ――。その祖母こそが突然変異の白毛馬の牝祖であり、3世代を経て一大牝系となる優秀さを示している。神々しさと愛らしさで注目を集めてきた一族の物語。
1996年4月4日、ノーザンファームの旧第2厩舎でのことだった。当番で牝馬ウェイブウインドのお産を担当したスタッフが取り上げた仔馬は、羊水で濡れていて、全身がピンク色だった。
早産の未熟児などで、毛がなく、こうした色の仔が生まれることはある。しかし、ウェイブウインドのお産は予定より遅れていた。どうしてだろう、と思いながらタオルで羊水を拭いた。乾いてくると、だんだん白くなってきた。
――これは白毛だ。
白毛馬を見たのも触ったのも初めてだったが、そうだとわかった。ちょうど「みどりのマキバオー」という、白い馬が主人公のマンガが流行っていた。
「マキバオーが生まれたから見に来いよ」
と、彼は仲間に電話をした。
夜中の12時になろうとしていた。
電話を受けた繁殖スタッフの長浜淳(現・繁殖主任)は、1時間もしないうちに厩舎に行った。
「全身が、白っぽいピンクで、照明を受けて輝いていました」
その白毛の仔馬が、昨年の2歳女王で、今年の桜花賞を無敗で制したソダシの2代母のシラユキヒメだった。
シラユキヒメの母ウェイブウインドは鹿毛で、父サンデーサイレンスは青鹿毛だった。シラユキヒメは初仔だったのだが、ウェイブウインドは、普通に自分の仔として受け入れ、立ち上がった我が仔に乳を飲ませていたという。
「珍しい白毛が生まれた」という報せは、広いノーザンファームを瞬く間に駆け巡った。ほかの部署で働くスタッフも次々と見に来るようになったのだが、やがて、あまり騒ぎを大きくしないようにしよう、という空気になった。
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photograph by Seiji Sakaguchi