#1104
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【楽天】「お前は今すぐ帰れ!」闘将・星野仙一の2013年“初の日本一”と知られざる日々「大将、俺に似ているなぁ」《証言:藤田一也、長谷部康平、仁村徹》
2024/09/15
2013年、頂点に立った楽天はエース田中将大が前人未到の24勝無敗で闘将星野の存在感すら霞むほどだった。最初で最後の日本一に輝いた1年、66歳の指揮官はどのようにナインを導いたのか。知られざる日々を追った。(原題:[楽天日本一の真実]杜の都で放った最後の光)
日本一になった監督は忙しい。
2013年11月3日。楽天を頂点に導いた星野仙一監督は深夜までテレビに出演し、寝たのは午前4時だった。それでも翌朝は8時に目が覚め、昼はカフェでランチをとりながら、番記者の取材に応じた。
冷たい雨のなか、仙台の空を舞った余韻は簡単には消えない。ひと息ついた夜、星野には足を運びたいところがあった。
「目ぇ、書きに来たわ」
暖簾をくぐり、ぬっと顔を出す。
そして「鮨 仙一」の、いつもの席に腰を下ろした。親方の山田定雄はカウンター越しの星野がいつになくくつろいだ、11年前の夜を昨日のことのように思い出す。
「珍しくひとりで来られたから、よく憶えています。よほど嬉しかったのだなあと」
星野が初めて店に来たのは楽天の監督に就任した直後だったが、中日の監督の頃から店のことを知っていた。「仙台で俺の名前を騙って、寿司屋をやってるヤツがいる」と嬉しそうに言っていたという。屋号の由来を伝え聞いていたのだ。「仙一」に、ふたつの思いを込めた山田は振り返る。
「仙台で一番の寿司屋にという思いと巨人のV10を止めた中日の星野さんの喧嘩投法が好きでね。自分の気性に合ったんです」
あの日、握りを食べ終えると、星野はおもむろに立ち上がった。
「大将、筆あるか」
カウンターに鎮座する真っ赤な高崎だるまに向き合い、黒い目を入れはじめた。それは星野が親方や店員、居合わせた客と日本一を祝う、ささやかなセレモニーだった。
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photograph by Naoya Sanuki