すべては“偶然の出会い”から始まった。
2015年、群馬県の太田市リトルシニアに所属していた中学3年生の野村佑希は、遠征で埼玉県を訪れていた。出場した大会の初戦で敗れ、敗者復活戦に回ったためだ。そして、この試合を観戦していたのが、埼玉県内屈指の名門、花咲徳栄高校を率いる岩井隆監督だった。
「群馬県のシニアは当時は2チームしかなかったので、関東圏でよく試合をするんです。花咲徳栄がたまたま近くで試合予定だったんですけど、中止になったそうです。それで岩井先生が、教え子さんが監督をするチームの視察に来ていた。その相手チームに僕がいたんです」
投手、さらに主砲を務める野村が、岩井の目に留まった。アメリカ生まれ群馬県育ちの野村と、埼玉県で高校野球部を率いる岩井は、こうして互いを知ることとなる。ただ、挨拶に訪れた岩井の第一声は意外すぎるものだった。
「怒られました(笑)。いきなり『手見せろ』って言われて、手のひらを見せたら、『ピッチャーは爪を見せるんだぞ』って。普通に爪切りで切っていたので、『ピッチャーなんだから、ヤスリでもっと整えろ』って言われました」
油断も隙もあったものではない。言い換えるなら、岩井はそれだけ細かく選手のことを見る指揮官だということだ。初めて見たばかりの野村に目を付けたのも、自身のチームにピタリとハマる人材だと見抜いたからに他ならなかった。
「花咲徳栄は甲子園に出場はできても、勝つことができていなかった。それまでは投手力中心で野手は小柄な選手が多かった。だから、僕みたいな右投げ右打ちの大きい選手が必要だったと、後々聞きました」
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