マンチェスター近郊のジムで、彼は牙を研いでいた。“最強”を決する4団体王座統一戦で、井上尚弥と拳を交えるのがこの男だ。下馬評は井上の圧倒的有利。そんな声が聞こえるたび、34歳の肉体は熱く燃える。世紀の一戦を前に、黙々と汗を流す王者を訪ねた。(初出:Number1064号[4団体統一戦直前インタビュー]WBO世界バンタム級王者ポール・バトラー 「番狂わせの準備はできている」)
―12月13日、バンタム級の世界4団体統一王座をかけた井上尚弥戦が行われます。この記念すべきタイトルマッチが実現した経緯から教えていただけますか?
「試合は井上側が申し込んできたんだ。僕は彼が持っていないWBOのベルトを持っているし、4団体すべてのベルトを腰に巻いたボクサーは、これまで日本ではいなかった。しかも井上は(スーパーバンタム級に)階級を上げたがっているから、今年中に統一戦をやりたいと思っていたんだ」
―井上は父親の指導を受けてきたことで知られています。あなたの場合は?
「実は子供の頃はサッカーに夢中だったんだ。リバプールの大ファンでね。
でも父はボクシングが大好きだった。試合には出たりしなかったけど、いつもジムに通っていたし、毎週土曜日の夜になると、僕も一緒にテレビで試合を見ていたんだ。
父はそのうち、『ポール、お前もボクシングをやってみないか?』と言ってくるようになったけど、僕は誘われるたびに『絶対やだね!』と答えていたんだ(笑)。
でもある日、ナイジェル・ベン対ジェラルド・マクレランのビデオを見せられてね。ベンは格下だと思われていたし、試合の入り方も最悪だった。それなのに見事に立て直して、最後は勝ちをもぎ取ってみせた。
僕はああいう勝ち方、そして試合の雰囲気に心を鷲掴みにされたんだ。だから試合を見終わった後、父にこう言ったんだ。『今すぐボクシングをやりたい!』ってね」
―お父さんの念願がついに叶ったと。
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photograph by Tomoko Nagakawa