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[948球の頂上体験] 斎藤佑樹が甲子園の決勝再試合で投げた「僕の最強の一球」<独占インタビュー/2012年>

2023/08/13
史上最多の球数を記録し、田中将大に投げ勝ったあの夏から6年。自信に溢れていた決勝そして決勝再試合で味わった至福の体験を、いま振り返る。(初出:Number809号 斎藤佑樹[948球の頂上体験] 「決勝再試合、僕が投げた最強の一球」)

 他の色のハンカチも持っていた。

「いくつかあったんです。何色があったかなぁ……黒はありましたね」

 えっ、黒―!?

 もし彼が青いハンカチじゃなくて、黒いハンカチを使っていたら、果たしてあそこまでの騒ぎになっていただろうか。

「だから、青の、あれはハンカチじゃなくてハンドタオルですけど(笑)、その青いのがいつの間にか注目されていたみたいだったんで、これはもう、青を使わなくちゃいけないのかなと思って……」

 青い“ハンドタオル”を使って、流れる汗を上品な仕草で拭う、クールな高校生。白い帽子、立ち襟に長袖の白いアンダーシャツ、白いユニフォーム。戦いの場に似つかわしくない穏やかな表情には、誰が呼んだか「ハンカチ王子」の愛称がやけにハマっていた。

 早稲田実業のエース、斎藤佑樹。

 甲子園のマウンドに立つ彼の目には、青でも白でもなく、緑が焼きついていた。

「いつもイメージするのは、マウンドに立ってる自分がバックネットの観客席をふわっと見てる感じなんです。それが緑でした。匂いも青臭いっていうか、緑の匂いがして、自分にとっては、甲子園イコール緑って感じです。でも、緑のバックネット裏は静かなのに、アルプスは騒がしくて、景色が全然、違う。ここらへんは緑なんだけど、でもこっちは白かなぁ。聞こえてくるのは『紺碧の空』で……」

 彼は目の前で右手を泳がせながら「ここらへんが緑」と言い、今度はその右手を右斜め後方へ持ってきて「こっちは白」と表現した。

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photograph by Masakazu Yoshiba

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