縦じま一筋で通してきた男には信念があった。それは、どんな形であれタイガースに貢献すること。艱難辛苦も味わった一軍監督時代を経て、今年からファームで若虎たちと輝く未来を作り上げる。
断続的に小雨が降り注ぐ中、和田豊は傘も差さずに颯爽と大股で現れた。二軍戦を終えたばかりの阪神鳴尾浜球場。若い虎番記者たちを屋根のある球団施設玄関前へ誘導すると、丁寧に受け答えを開始した。スッと伸びた背筋も、膨らみのない腹回りも、8年前とほぼ変わらない。唯一違いを探し出すとすれば、それは内面だろうか。
「若い選手の成長を見るのは楽しいよ。この前できなかったことができるようになったやんって。孫がゼロの状態からハイハイしたり立ったり……。一緒にしたらおかしいけど、そんな喜びに近いモノもあってね。つい最近も小野寺暖が一軍で3番で使ってもらってヒットまで打った。これが二軍監督の醍醐味、喜びなんだろうね」
60歳。孫はもう5人いるらしい。最後に一軍で指揮を執った'15年と比べると、表情には幾分穏やかさが増したようにも映る。
「いつまでネクタイしとんねん」
'22年秋、5歳上の岡田彰布から突然電話がかかってきた。先輩は15年ぶりの阪神一軍監督再登板が決まったところだった。第1次岡田政権時は'05年に打撃コーチとしてセ・リーグ制覇の美酒に酔いしれた。'08年は内野守備走塁コーチとして歴史的大失速によるV逸に泣いた。苦楽を共にした男から届いた二軍監督就任の打診。自分でも驚くほど感情が高ぶった。
「そこは背広を着ていた7年が大きかったかな。スカウトの仕事も手伝わせてもらって、今二軍にいるのはアマチュア時代から見てきた選手ばかり。彼らを成長させていくのも面白いなって思ったんだよね」
全ての写真を見る -1枚-
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Kiichi Matsumoto