第一線で活躍するアスリートは、敗戦から何を学ぶのか――。42歳でMMAに転向した元レスリング世界王者はその初戦で敗れたものの、「もっとやれる」と手応えを得たという。
【Defeated Game】
2016年9月25日 RIZIN.2 第12試合
RENA○ 1R4分50秒 ニンジャチョーク ●山本美憂
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「すべてのことに意味があるんだよ。勝てなかったとしても、あれがあったから今の自分があるんだと思える日がきっと来る。それは明日かもしれないし、1年後、いやひょっとしたら10年後になるかもしれない。でも、絶対にやって来るから」
いつの日だったか、弟の山本“KID”徳郁からそう熱っぽく語られたことがある。山本美憂はレスリングで3度世界女王になりながらも、オリンピック出場を果たせなかった。MMAに転向してからもその言葉を大切にしてきた。あれから7年。チャンピオンにはなれなかったが、今の私にはMMAがあると大声で言える自分がいる。
2023年3月、引退を表明した。当初は5月に行なわれるRIZINがラストファイトとなる予定だったが、練習中に右ひざ前十字靭帯断裂の大ケガを負ったため、大晦日にスライドとなった。
その山本が挙げる「珠玉の1敗」は、MMAデビュー戦となった'16年9月25日、さいたまスーパーアリーナでのRENA戦だ。
KIDから病気を告白され、弟の指導を受けることで一緒に過ごせる時間を増やしたいとの思いも転向に踏み切った理由ではあった。挑戦表明からわずか2カ月後の試合、それも相手はシュートボクシング世界フライ級王者だ。42歳からのMMA転向には懐疑的な見方もされた。
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photograph by Essei Hara