日本の金城湯池である女子レスリング界に圧巻の白星街道を突き進む選手がまたしても出現している。4月9日からカザフスタンで行われたアジア選手権の女子53kg級で、19歳の藤波朱理(日本体育大学2年)が優勝。同階級で五輪3連覇を達成した吉田沙保里が19歳から25歳までの約6年間に築き上げた119連勝に並んだ。
藤波は中学2年生で出た'17年全国中学生選手権女子44kg級決勝で伊藤海に敗れたのを最後に、6年近く負けなし。17歳で初制覇した'21年世界選手権を含め、連続優勝は30大会まで伸びている。
目を見張るのは119連勝という数字もさることながら、攻守に隙のない圧倒的な試合内容。最近では'21年12月の全日本選手権決勝で入江ななみに2ポイントを奪われたのが最後で、現在、29試合連続無失点中だ。武器は低い姿勢から超高速で繰り出すタックルで、後ろに回る動きも実に巧みだ。
昨年は左足の負傷で9月の世界選手権を欠場する苦しみを味わったが、12月の全日本選手権で復帰優勝を飾ると、今年は2月クロアチア、3月ブルガリア、そして今回のカザフスタンと3カ月連続で国際大会に出場し、テクニカルフォール勝ちを連発。海外勢に「圧倒的な強さ」を印象づけた。
研究され始めていることを自覚して臨んだアジア選手権では、得意の片足タックルをなるべく使わず、組み手や、がぶりを試しながらの試合運びで優勝。女子53kg級には東京五輪金メダルの志土地(旧姓向田)真優がいるが、昨年の全日本選手権を制した藤波が一歩リードしており、6月の全日本選抜選手権で勝てば9月の世界選手権(セルビア)の代表に決まる。そこで優勝してパリ五輪代表に内定することが藤波の今年の目標だ。
吉田と並んだことについて、「雲の上の存在」と恐縮しつつ「連勝への意識はない」と語ったように、関心があるのは理想の強さを身につけることのみ。「試合は発表会。レスリングはゴールがないと思うので、突き詰められるところまで強くなりたい」とレスリング道を邁進している。現時点の最大のターゲットはパリ五輪の金メダルだが、伊調馨の189連勝(不戦敗を除く)というとてつもない記録すら周りに意識させてしまう19歳から目が離せない。