最終予選チーム最多得点で日本を本大会へと導いたスピードスターは、新たに与えられた守備的なタスクを懸命にこなし最後までチャンスを窺った。一切の泣き言もなく、涼しい顔で走り続けた先に見えたものとは――。
「小さいころは、この舞台に立てるとは想像すらできなかった」
4年に一度のワールドカップについてそう語る伊東純也に、しかし、気持ちが昂る様子もなければ、緊張も見られない。
自身のデビュー戦となったドイツ戦の後には、「そんなの考える余裕もなく、守備に追われていた」。
緊張したかと問われれば、「そうでもない」。中3日で試合をこなす日程についても「連戦は得意。個人的には全然大丈夫」。
取材中に時折浮かべる、照れたような笑みが、そうした言葉に嘘や強がりがないことを物語っていた。
ワールドカップだからと特別なことは何もない。伊東はいつものままだった。
昨年9月から今年3月にかけて行われたワールドカップ最終予選を通じて、伊東は日本代表内における序列を動かし、自身の立場を確たるものにしていた。
最終予選で決めたゴール数はチーム最多の4。チャンスメイカーにとどまらず、その存在は、もはやエースと呼ぶにふさわしいものにさえなっていた。
ところが、ワールドカップ本大会が始まると、次第に風向きが変わっていく。
グループステージ初戦のドイツ戦。日本は0-1で迎えた後半、従来の4-2-3-1から3-4-2-1へとシステム変更すると、以降の試合では、むしろ後者が主戦システムとなった。
そんななか、大きく役割を変えることを求められたのが、伊東である。
従来の右サイドハーフから右ウイングバックへとポジション変更。最終予選でエースの地位を勝ち取った快足ウイングは、より守備の負担が大きい役目を任された。
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photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA