てっぺんに立った者にしか、見えない景色がある。史上初の女性棋士を目指して編入試験に臨んでいる里見香奈は、何を思いながら盤に向かうのか。かつて女流タイトルを総なめにしたレジェンドが、“後継者”の胸の内に迫る。
いったい、里見香奈とは何者か。
言わずと知れた女流棋界の第一人者。いや、生ける伝説と言うべきか。わずか16歳で獲得した倉敷藤花を皮切りにタイトルというタイトルを総なめにし、その数は49期まで伸びた。無論、歴代最多である。
3年前の2019年には、女流史上初の六冠を達成。あまたの記録を次々と塗り替え、今日に至っている。文字どおり、女流棋界のてっぺんに立つ人だ。
こんな風に彼女について語ることなら、誰にでもできる。ただ、てっぺんから見える景色は、てっぺんに立ったことのある人にしかわからない。里見女流五冠のほかに誰がいるというのか。
いや、いる。長きにわたり、女流棋界のてっぺんに立ち続けてきた偉才が。その人こそ清水市代女流七段である。通算タイトル数をはじめ、里見が塗り替えてきた記録の大半は清水のそれだ。この偉大な先人の目に里見の姿はどう映っているのか。
あれは'19年春、日本将棋連盟主催のイベントでのことだ。令和の時代、棋界に何が起きるかという質問に対し、清水は色紙に『里見香奈』と書いていた。
「彼女ならば、私など思いも及ばない何かを成し遂げてくれるのではないか。素直にそう思ったんです」
思いも及ばないこと――。目下、里見が挑戦している「女性初の棋士編入試験」はその1つだろうか。それも、女流棋士として数多くのタイトル戦をこなしながら、である。普通ではない。だが、清水には里見の挑戦欲が手に取るようにわかるのだ。
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photograph by Miki Fukano