3大会目の五輪で自身最多の5種目出場に挑み、最後のレースで遂に手にした個人最速の勲章。世界が認める万能スケーターが今大会で貫き通した唯一無二の滑走の軌跡と、その裏に秘めた思いを追う。
胸の上で金色のメダルが燦然と輝いていた。2月18日夜、北京五輪のメインスタジアムである通称「鳥の巣」前の広場で行なわれたメダルセレモニー。きらびやかにライトアップされた表彰台の真ん中で、高木美帆は目を潤ませていた。
センターポールに日の丸が掲揚され、君が代が流れた。スピードスケート女子1000mで金メダルを獲得した日本のエースは、しみじみと喜びを噛みしめながら君が代を口ずさんだ。5種目7レースに挑戦し、滑った距離の合計は1万3200m。最後にたどりついたゴールラインの先に自身初の個人種目の金メダルがあった。
「君が代の音色はアスリートにとって輝かしいもの。やっとその場所に立てたのだと、こみ上げるものがありました。これからのことを考えると、実際の重量以上の重みがあると感じています」
日本の女子アスリート史上初となる1大会4個目のメダルを手にし、潤んだ目のまま、感慨深げに言った。
5種目への挑戦は波乱含みで始まった。
最初の出番だった2月5日の女子3000m。高木は5位だった平昌五輪より順位を落とし6位に終わった。表彰台の期待がかかる中、動きに切れを欠き、優勝選手のタイムより5秒近く遅い4分1秒77でフィニッシュ。
「結果が6番だったということもですが、滑りの中で200mから600mの1周で攻めきれなかった。ここ数年の中で、一番できなかった。滑りに迷いがあった」
これほど歯切れの悪い口調の高木を見たことがないほど、声に力がなかった。
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photograph by Asami Enomoto/JMPA