前人未到の4回転アクセルの成功と、94年ぶりとなる五輪3連覇。北京での2つの偉業達成の可能性が、昨年12月の全日本選手権で示された。技術と表現を極限まで融合させ、王者は史上最大の挑戦を敢行する――。
8年前のその言葉は、時を経て色褪せるどころか、より鮮烈な印象を呼び起こす。
「現代スケート界のフェノメノンです」
2014年2月13日、ソチ五輪ショートプログラムの日。'94年リレハンメル五輪金メダルのアレクセイ・ウルマノフ、'06年トリノ五輪金メダルのエフゲニー・プルシェンコら多くのスケーターを育成し、ロシアの重鎮とも言われる指導者、アレクセイ・ミーシンが、「優勝するのは羽生結弦である」と語り、それに続けた言葉だ。
フェノメノンは多くの意味を持つ。現象、不思議なもの……ここでの意味は、おそらくは「逸材、驚異的な人」であっただろう。
ミーシンの発言は羽生のショートプログラム滑走前のことだ。大会にはパトリック・チャンがいて、拮抗した勝負になるとも言われており、その中で勝者を断言したのは大胆とも言えた。ただ名指導者の眼力に間違いはなく、この大会で羽生は優勝を果たした。そしてその後の活躍は、彼がまさに「フェノメノン」であることを証明している。
ソチに続き'18年平昌大会で連覇を果たすなど数々の国際大会で活躍する羽生について、折に触れて高く評価してきたミーシンは、昨年12月、ロシアのメディアの取材の中で、1点だけ、懐疑的な見解を示した。
「現在の人間の身体能力では、私の生涯の中では誰も成功させることはできないと思っています」
心配も含まれていただろう言葉が指していたのは、4回転アクセルについてであった。羽生が挑戦していることはむろん知っている。その上で語ったのは、羽生をもってしても実現が困難であると考えていたからだろう。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Asami Enomoto