その姿を追うカメラマン、番勝負の舞台の女将、地元東海棋界の重鎮、将棋中継の革命者、将棋沼にハマった芸人、女流棋士にして観戦記者。6人が間近で見て、感じて、魅了されたヒーローの横顔を明かしてくれた。
昨年10月、竜王戦第3局の舞台となった福島県・いわき湯本温泉の老舗旅館「新つた」。その女将、若松佐代子が最初に驚いたのは藤井聡太のおやつのチョイスだった。
棋士は会場入りの際におやつを含めた2日間の希望メニューを提出する。料理に関しては板前が地元の食材からとりどりのメニューをこしらえていたが、スイーツは地域のお店から集めても限界がある。
「でも、まさか『じゃんがら』を選ぶとは思いませんでした」
藤井が提出した用紙には銘菓「じゃんがら」の横に丸印がつけられていた。
第1局はハロウィンモンスターの形をした紫芋モンブラン、第2局ではくまさん最中。それまで選んできたカワイイ系の映えるおやつとは異なり、郷土芸能の名を冠した和菓子はいかにもな佇まいで、少なくとも世間一般の19歳が好むルックスではない。映(ば)えない。
「お菓子までは行き届きませんので、温泉旅館で普段お出ししているものならばということでした。でも藤井さんはそれを選んでくれた。気を遣って地元の“愛”を選んでくれたのかなと思います。いわき銘菓と名がついてますからね」
藤井は2日目も温泉まんじゅうと味噌まんじゅうの手堅い攻めを見せた。
感染対策のため宿の従業員でも気軽に棋士と触れ合うことはできず、客室回りで世話をしたのは接客係の米村一哉だけだった。
最初にスーツ姿の藤井を見た時、米村は「思ったよりも小柄だな」と感じたという。ところが、和服に着替えた途端に雰囲気が変わった。「お部屋に行ったら、一人で着替えてビシッとされていた。がっちりして見えて、風格を感じました」
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photograph by Yomiuri Shimbun