転んだのに笑うオリンピック選手を見たのは、2021年のスケートボード会場が初めてではない。
1972年の女子フィギュアスケート。その人はフリーの演技で氷に尻をつけた。すぐ起き上がると、花束が微風に揺れるようなスマイルがあった。
50年前の札幌冬季五輪の銅メダリスト、ジャネット・リン。優勝のオーストリアのベアトリクス・シューバ(課題をスケートでなぞる規定が1位、フリーは7位)の滑走姿が歳月に消えても、シカゴ生まれの18歳の銅メダリスト(規定4位、フリー1位)の髪の色なら国民の記憶に刻まれている。
「札幌の恋人」は閉会後に住宅となる選手村の自室の白い壁にペンを走らせた。公序良俗の観点では「落書き」だ。記されたのは「ピース&ラブ」。なんと凡庸でなんと可憐な言葉だろうか。
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photograph by KYODO