若さと勢いで奇跡のように代表の座を射止め臨んだ平昌の舞台。その後の挫折と転機を越えて、彼女が迎えた4年に一度の冬。“緊張”の意味も変わってきたエースが描いた成長の軌跡を辿った。
印象的なスピンとともに曲が終わり、フィニッシュ。その瞬間、観客席の人々が一斉に立ち上がり、拍手で称えた。コーチに出迎えられると意外な言葉がこぼれた。
「怖かった――」
そのときの心境を振り返る。
「今日は……今日もなんですけど、相変わらず緊張がすごくて、ショートの時よりだいぶ緊張していて、最初の(ダブル)アクセルで傾いてしまったのでヒヤッとしたんですけど、そこから最後まで持ちこたえられてよかったです」
11月13日、坂本花織はNHK杯連覇を果たした。前年がコロナ禍でほぼ国内大会同様のメンバーでの優勝だったことを考えると、実質的にNHK杯、そしてグランプリシリーズの初制覇と言えた。緊張と戦い、打ち克っての堂々たる優勝だった。
坂本はこれまで何度も“緊張”について口にしてきた。しかしその意味は、あの頃とは大きく異なっている――。
坂本の名が広く知られたのは'17-'18シーズンのこと。シニアデビューを飾ったこの年は平昌五輪を目前に控えるオリンピックイヤーでもあった。ただ坂本自身、シーズンスタート時点ではこの大舞台を明確な目標としては捉えていなかった。
「(オリンピックに)出られるとは考えていなかったです。ほんと、最初は『選ばれたら奇跡やな』と思っていました」
それでもグランプリシリーズに初参戦するなど精力的に試合数を重ねるなかで、伸び盛りの17歳は大躍進を遂げ、全日本選手権2位に入り、一気に五輪切符を掴んだ。
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photograph by Sunao Noto/JMPA