前年最下位からリーグ優勝を果たすと、日本一こそ逃したものの、胸を打つ戦いを最後まで続けた。指揮官はいかにしてオリックスを変えたのか。3つのキーワードと証言から紐解くその手腕とは。
オーダーをどう組むか、この指揮官はいつもギリギリまで考えている。オリックスの監督なのに、頭の中で対戦している相手はいつもオリックスだ。日本シリーズもそうだった。ヤクルトと戦う前に中嶋聡監督はまず、オリックスと戦うキャッチャーとして、どんなオーダーで来られたらイヤなのかをとことん考える。それが、キャッチャー出身の指揮官の采配の原点だった。
前年最下位のオリックスをリーグ優勝へ導いた中嶋監督は、育成と勝利を両立させるために3つの策を講じてきた。そのキーワードは「適性」「我慢」「競争」だ。
まずは「適性」――中嶋監督は今シーズン、大胆なシフトチェンジをいくつも断行した。ショートからセカンドへコンバートされた安達了一は、こう話している。
「監督はいつも冗談まじりだから、話が本気かどうかがわかりにくい。初めてセカンドで試合に出たときも最後の最後まで何も言われなかったんです。そうしたら試合前にふらっと来て『今日、セカンド行くぞ、行けるか』って。そのとき初めて、ああ、本気だったのかってわかりました(笑)」
宗佑磨も中嶋監督に突然、「サード、どうだ」と言われて戸惑ったのだという。
「たぶん監督は、試合前に内野でノックを受ける僕を見てくれていたと思うんです。練習のときってエラーしても何ともないじゃないですか。だから気楽に、自由奔放に守っていたんです。それがよかったのかな」
チームに欠けていた“1番”“センター”という2つのピースを5月から一人で埋めた福田周平は、中嶋監督の声掛けがあったから心を折らずに済んだのだと言った。
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photograph by Nanae Suzuki