ロッテのエースだった黒木知宏は、プロ1年目の松坂大輔と対決した最初の2試合を、いまもついきのうのことのように思い出せるという。まず松坂のデビュー3戦目だった1999年4月21日、千葉(現ZOZO)マリンスタジアム。次がその6日後に西武(現メットライフ)ドームで、互いに持てる力の限りを尽くして投げ合った。
「最初は僕が勝ったんですけど、試合後に松坂くんが『同じ相手に二度負けることはできないのでリベンジします』と発言したでしょう。自宅のテレビで見ていて、『何、この野郎、そんなに簡単にリベンジされてたまるか』と思いましたよ。結果は、見事にリベンジされてしまったんですが」
楽しそうに振り返る黒木は、対決前から松坂のスケールの大きさを感じていた。
「あの初対決の日、球場周辺の道路が渋滞してるんです。いつもなら車で高速の料金所から15分で球場に着くのに40分もかかったのは、僕の現役時代であの一度きり。みんな、僕よりも松坂を見にきてるんだ、スターはすごいなあ、と実感しました」
いざ試合が始まると、初めて見る怪物の変化球のキレに、思わず息を呑んだ。
「やっぱりスライダーがすごかった。打ち取られた打者が『目の前で消える』『見えねえ』って言うんです。正直、なかなか点を取れないだろうな、と覚悟しました」
さらに驚かされたのが、松坂がマウンドをスパイクで一所懸命掘っていたことだ。
「マリンのマウンドは僕が投げやすいようにと、傾斜がなだらかになっていたんです。でも、松坂くんは逆に、傾斜が急なほうが自分に合っているから、投げる前に足場の土を蹴飛ばして穴を掘る。おかげで、僕は毎回、その穴に足で土を戻して、踏み固めなきゃいけない。高校を出たばかりの新人が、プロの先輩のホームのマウンドを自分仕様にするなんて普通はできません。それも、自分のテリトリーをちゃんと管理するという、彼の能力の高さのひとつでした」
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