準決勝に敗れ、金メダルへの望みが絶たれた――。今大会初の敗北に2人は確かに狼狽えていた。しかし、それから24時間後、ペアは歓喜の抱擁を交わす。その間に一体、何が起きていたのか。
7月29日、東野有紗がホテルに戻ってきたのは正午前だった。とても昼食をとるような気分にはなれなかった。準決勝で世界ランク3位の中国ペアに敗れてから、まだ1時間ほどしか経っていなかった。
「目指していたのは金メダルだったので本当に悔しくて……。まだ終わったわけではないので試合後は絶対に泣かないと決めていたんですけど、泣いてしまいました」
失意のまま部屋のテレビをつけると、パートナーである渡辺勇大がこの日の2試合目を戦っていた。彼は男子ダブルスの準々決勝にも出場していた。そして敗れた。
うなだれる渡辺の姿を見て、東野は翌日の3位決定戦のことを考え始めた。
「勇大くんは私よりもっと落ち込んでいるだろうし、だったら自分は切り替えて、逆に勇大くんを励ませるぐらいでないといけないなと思ったんです」
渡辺がホテルに戻ってきたのは午後3時過ぎだった。2つの敗北に打ちのめされていた。とても先のことを考える気持ちにはなれなかった。それでもあと24時間もしないうちに銅メダルをかけた戦いがやってくる。残された最後のチャンスだ。渡辺はともに戦う東野の気持ちを想像してみた。
「先輩はきっと切り替えている。どんな状況でもコートに立てば強い気持ちで戦ってくれる。そう信じていました。あとは自分がどれだけ切り替えられるかだなと……」
東野と顔を合わせたのは、翌日の朝食のときだった。ホテルのラウンジには代表チームの他選手やスタッフもいたが、2人はいつも隣に座り、何気なく言葉を交わすようにしていた。
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photograph by AFLO