屈辱のリオから5年、銀メダル以上を確定させて臨んだ決勝は、疲労困憊ぶりがうかがえる苦しく厳しい戦いとなった。その消耗戦が際立たせたのは、変貌を遂げた男の強さだった。
オリンピックの金メダル、しかも東京大会の日本勢金メダル第1号決定の瞬間としてはいささか地味だったろうか。
当の本人ですらこう思っていたという。
「いやあ、もう渋い試合したなあと思いましたね。これ絶対テレビで見ている人は分からないだろうなあって」
台湾の楊勇緯との決勝戦はゴールデンスコア方式の延長戦に突入。2分、3分と過ぎて消耗戦の様相を呈してきた頃、相手に指導が与えられた。累積3つで反則負けとなり、高藤直寿に金メダルが転がり込んだ。
「でもあれが僕です、はい」
高藤は胸を張って言った。
銅メダルに終わったリオデジャネイロ五輪からの5年、転がり込んでくるのをただ待つような呑気な時間を過ごしたわけではなかった。何かが変わる、何かを変えるために費やした年月の果てに、相応しい変化を示して目標に辿り着いたからだ。
たとえばルーティンを変えた。以前は畳に上がって後ろ受け身をするのが決まりだったが、リオ五輪の初戦に勝った後、「次にやったら遅延行為で失格にする」と通告を受けた。それでリズムを崩した。本当に必要なのか? ルーティンをしたら勝つのか? 答えは明白だった。この日も畳に上がる動作はすべてが同じ動き、タイミングというわけではなかった。その変化を受け入れる器が備わっていた。
柔道スタイルも変わっていった。反射神経を生かし肩車や大腰などダイナミックな技を駆使する即興的な柔道から、必要以上にリスクを冒さず思慮深い構築的な柔道へ。
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photograph by KYODO