#1011
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<大敗と内紛の夏>バルセロナ「未来を縛る10番の幻影」

2020/09/24
バルセロナを生かしも殺しもするメッシ。混迷するチームはどこへ向かうのだろう
今夏、バルセロナに激震が走った。CLでの屈辱的大敗と監督の解任、功労者への一方的な戦力外通告、そしてエースの退団宣言と残留表明。新指揮官はチームをどう再建するか。若きスター候補はいるものの、サッカー界を牽引したクラブの行く末は、混沌としている。

 メッシが(渋々ながら)バルサ残留を発表した翌日、涼しげな風が吹き始めたバルセロナの街を歩いた。

 有名ショップが並ぶグラシア通りを下っていく。外国人観光客がほとんどいなくなった通りからは賑やかさが消え、地元民のカタルーニャ語が飛びかう。いつもは行列の絶えないガウディ建築も空いていてどこか寂しげだ。バルサストアを通り過ぎると、目的地のカタルーニャ広場が見えてくる。

 8月末、並木道の一角にある配電盤のボックスの鉄扉に、どこかのアーティストがメッシのストリートアートを描いていた。

 鮮やかな赤いハートを背景に、迷彩柄のシャツを着たメッシがタバコをくわえて歩いている。リュックを背負い、右手には航空券、左手は黒のキャリーケースを引いている。英国国旗が描かれ、水色のマンチェスター・シティのクラブエンブレムが小さく添えられた、そんな絵だ。

 メッシの退団騒動が勃発した直後、このアートが地元で密かに話題になった。それは一時的な人気スポットとなりメディアでもとりあげられた。通りすがりの人々が、街の王様の姿を思い思いに写真に収めた。

真相は闇に。しかし怒りが感じられた

 しかしその日、メッシの姿はそこにはなかった。

 アートが消されたのではない。その鉄扉は暴力的に剥がされていて、中に詰められた配電盤が丸見えになっている。絵の名残といえば、メッシの右足と半分になった英国国旗、そしてシティのエンブレムだけだ。

「いつの間にかなくなっていたんだ」

 目の前のアップルストアの店員が言う。

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photograph by Shin Toyofuku

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