#988
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<窮地を救う至宝の輝き> 姫野和樹「天井知らずのライジングサン」

2019/10/19
右肩を故障したマフィに代わってロシア戦にNo.8で先発した姫野。
「日本ラグビー界の至宝」と呼ばれる25歳が初のW杯の舞台で眩いほどの活躍を見せている。規格外の強靭なフィジカルを持つ和製モンスターが、ジャパン快進撃の原動力となっていた――。(Number988号掲載)

 君が代に熱い衝動が込み上げた。9月20日の東京スタジアム。このW杯のために捧げてきた日々が、努力が、苦悩が、怒濤のように脳裏に浮かんだ。

「国歌斉唱を聞いた時に、これまでやってきたことが走馬灯のように頭をよぎりました」

 背番号8を背負った姫野和樹の目には涙が滲んでいた。2017年11月に代表入りした若武者が、夢にまで見たW杯日本大会の開幕戦に辿り着き、4万6000人が集結した東京スタジアムの底で君が代を歌っていた。

 時にトヨタ自動車主将の責務と戦いながらも、歩みを止めなかった25歳だ。初めてのW杯であり、4大会目となる38歳のトンプソンルークとは違う。感情的になったとて、一体誰が彼を責めるだろう。

 ただ一人、試合前の昂ぶりを後悔したのは本人だった。

「国歌斉唱で気持ちの上がり具合が高すぎました。そこはメンタルコントロールしないといけないなと思います」

姫野には信念がある。

 アジア初開催のラグビーW杯日本大会。運命の開幕戦は午後7時45分、ロシアボールでキックオフの時を迎えた。SOユーリ・クシュナレフが上げたボールが、待ち受けるリーチマイケル主将めがけて落ちかかる。しかし楕円球はリフトされたリーチを越え――、背後の姫野に直撃した。判定はノックオン。突如としてロシアが攻撃権を手にし、自陣ゴール前で相手ボールラインアウトの大ピンチ。観衆の大声援が耳を塞ぐ。仲間の声が聞こえづらい。姫野和樹の初めてのW杯は窮地から始まった。

「最初にミスをして、メンタル的にもきました。でもノックオンをして吹っ切れたところもあります。思い切ってやろうと」

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photograph by Yuka Shiga

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