外野席から好き勝手にものを言うのが仕事だから、試合を見て、もっとこうすればいいのにと思うこともある。ときに、それをじかに選手にぶつける。厳しく切り返されるかというと案外そうでもなくて、選手は大抵、冷静に穏やかに自分の考えを述べる。こちらもそれ以上は食い下がらず、黙ってメモを取る。生煮えといえば生煮えだが、ならば次の試合を見ようと自分を納得させる。黙って見るのも我々の仕事なのである。
そうやって、この1年、奈良くるみの試合を見てきた。昨年のウィンブルドン以降、彼女が上位にどう挑むか注目していたのだ。その大会で奈良はビーナス・ウィリアムズに敗れた。ただ、第1セットは接戦、番狂わせの好機だったからこそ、会見で「相手は上位。もっとリスクを負って攻める余地はなかったのか」と聞いた。奈良は「早い段階でウイナーを狙うタイプではないので、足を生かすプレーをやっていったほうがよかったと思う」。冷静で隙のない返答だった。しかし、同年2月にツアー初優勝と上り調子の奈良だけに、一か八か、野心むき出しで元女王に挑む姿も見てみたかったのだ。
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photograph by Mannys Photography