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<複合個人、20年ぶりのメダル獲得> 渡部暁斗 「ただ、信念を貫くために」

2014/03/07
かつての「日本のお家芸」に久しぶりに光が射した。
その立役者は、どこまでも自然体の“変わり者”。
デッドヒートを戦い抜いた男の、揺るがぬ想いとは――。

 2月12日に行なわれたノルディック複合ノーマルヒル個人。2位になってアッサリとメダルを獲得した渡部暁斗は「今は力を付けることが目標だから、金を逃したというより、自分の位置を確認できたという思いですね。よく銀メダルを獲れたな、という感じです」と言ってニヤリと笑った。

 まさに納得の銀メダルだった。

 年明けにインフルエンザで休養したことで疲労が取れたのか、復帰後の渡部はジャンプの調子を上げていた。公式練習では8本中6本がウインドファクターを合わせた得点で2.4位。手応えを持って試合に臨んだのだ。

「エリックと『ふたりで協力して逃げよう』と……」

 そして試合では、その手応え通りの結果が出た。追い風0.29mの条件で100.5m。今季W杯7勝で総合トップのエリック・フレンツェル(ドイツ)は103.0mを飛んだが、向かい風の減点で得点差は1.5点。後半の距離は後続に21秒の差をつけ、フレンツェルとは6秒差と絶好のポジションを得た。

渡部暁斗 Akito Watabe
1988年5月26日、長野県生まれ。昨季はW杯で個人総合3位に入るなど活躍。今季も個人総合2位と好調で本番を迎えた。173cm、61kg。

「後ろはすごく大きなグループになりそうだったから、エリックと『ふたりで協力して逃げよう』ということになって……」

 予定通りに1km過ぎで追いついた。そこからしばらく後ろについていたかったが、スキーが滑っていたので前に出てしまったと言う。

「でもそこで変にスピードを落すよりも、スーッと前に出た方が力を使わないし。自分のペースを作れたので良かったと思います」

 こう話す渡部はフレンツェルのスキーが自分より滑ってないと判断し、積極的に前で引っ張った。結果的に3分の2近い距離を引っ張ったが、それは間違った選択ではなかったという。後続も後半一気に追い上げてきたが、周囲からの情報を聞きながら冷静に滑れた。

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photograph by Naoya Sanuki/JMPA

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