オリンピックイヤーが明けた途端に突然の訃報である。1月10日、食道がんのため70歳で逝った桜井孝雄氏。48年前('64年)の東京五輪バンタム級金メダリスト。日本のボクシング史上、唯一の五輪優勝者である。
あくまで個人的な意見だが、半世紀近くボクシングを見てきて、桜井のテクニシャンぶりは別格である。このサウスポー以上に強い選手、巧い選手がいたとしても、こと相手のパンチをかわす技術で、桜井の右に出る選手は思い当たらない。相手の攻撃を見事にかわすボクサーをよく「アートフル・ドジャー」と呼ぶが、桜井こそは「日本のアートフル・ドジャー」だった。「あのすばしっこさはまるでネコ科の動物だと思った」と、中央大の先輩・田辺清('60年ローマ五輪の銅メダリスト)は入部当時の桜井のカンのよさに舌を巻いた。本人は「千葉の田舎育ちで自然児のように遊びまくっていたのがよかったのかな」と言っていた。
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photograph by KYODO