#792
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<クローザー魂を継ぐ者> 浅尾拓也 「“伝説”を超えてゆけ」

2011/12/02
目指す地平は限りなく遠いのかもしれない。だが、今季は何度も
可能性を見せた――。守護神の正統後継者として期待される男の、
優しげな瞳からは窺い知れない激情に触れる。

 最高峰の戦いにおいても、その存在感は際立っていた。日本シリーズ第1戦、1-1で迎えた9回裏、落合監督が球審に告げたのは浅尾拓也だった。チームの命綱とも言える右腕は同点の場面を託され、勝ち越した直後の延長10回も続投。岩瀬仁紀にマウンドを譲ったのは2死を奪ってからだった。

 セットアッパーとストッパーの序列を超え、守護神とその後継者との差は限りなく縮まっている。それは浅尾が長い戦いの中で積み上げてきた信頼の証といえる。その事実を最も象徴していたのが、球団史上初のリーグ連覇を成し遂げたあの夜のワンシーンだった。

ペナントレース最後のイニング、ピッチャー交代と誰もが思ったが。

「代わると思いました」

 浅尾は、さも当然とばかりに言う。

 10月18日、横浜スタジアム。3-3で延長10回に入り、時間はすでに規定の3時間30分を経過していた。引き分けでも優勝が決まる中日にとって最後のイニングだった。3イニング目となった浅尾は2死一塁で左打席に筒香嘉智を迎えた。ベンチからヘッドコーチ、森繁和が出てきた。監督、落合博満はブルペンへの電話を手に取った。岩瀬もマウンドへ向かう準備をしていた。交代だ――。だれもがそう思った。だが、森が告げたのは意外にも「続投」だった。

「筒香も村田も、一発があるから長打だけ気をつけろ。最悪、四球、四球でもいいから確実にアウトを1つ取れる方法でいけ。自分のケツは自分で拭いてこい!」

浅尾と岩瀬、これまで明確だった順序が何度も交錯した今年。

 浅尾はうなずいた。そして最後は注文通り、ボール球になる高速フォークで筒香のバットにかすらせもしなかった。その瞬間、ベンチもスタンドも、すべてがはじけた。感情を爆発させた。グラウンドに広がった喜びの輪。浅尾はそのど真ん中にいた。

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photograph by Takashi Iga

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