彼女はなぜ、芝の女王と互角に渡り合えたのか。
年輪を重ねて辿り着いたテニスとの幸福な関係。
あとほんの少しだった。6月下旬、ウィンブルドンのセンターコートで行なわれた2回戦のクルム伊達公子(40)対ヴィーナス・ウィリアムズ(31=米国)。大会最年長の伊達は、大会5度の優勝を誇るヴィーナスを最終セットの第14ゲームまで追い詰め惜敗したものの、技対力の2時間56分の激闘は、世界中のテニスファンを熱くさせた。
伊達を「テニスの貴婦人」と形容した英インディペンデント紙は、「あと一歩で時計の針を巻き
戻すところだった」と称えるなど、海外メディアも奮闘を賞賛した。
――2日間にわたって死闘を演じた’96年のシュテフィ・グラフ戦を髣髴させる、息をのむような闘いでした。
「負けたにもかかわらず、帰国してからも多くの人たちに声をかけていただき、嬉しかったですね。自分としても、その前のクレーコートでの試合はずっと勝てない日々が続いたので、ウィンブルドンでちょっと吹っ切れたところもあり、良かったかな。
やっぱり相手がヴィーナスだったのでこれだけ注目されたんでしょう。彼女はパワーやスピードを現代の女子テニス界に持ち込んだ先駆者だし、5度もウィンブルドンを制しているほど芝のコートが得意。しかも精神力は並大抵じゃない。そんな現代テニスの象徴のようなヴィーナスに、世代の違う私のテニスがどこまで通用するのか。違うやり方であるにもかかわらず、互角に渡り合えたことに、周りは驚きと衝撃を受けたんだと思います」
―― 一番驚いたのはヴィーナス本人じゃないでしょうか。「彼女ほどネットに出てくる選手はいない。リスクを冒しても成功させていた。ほとんどの選手はこんなプレーはしない」と、試合後に、コメントしていました。
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