続く2試合では、別人のような好投を演じる。
ところが次の一戦は、イチローに痛打を浴びて突然の降板――。
ジェットコースターの如き序盤戦の中で、本人が味わっていた思いとは?
えっ!?
キョトンとした彼の顔が、本当に知らなかったのだということを窺わせた。
「えっ、次、イチローさんですか……えっ、次? ホントですか」
松坂大輔がイチローと今シーズン、初めて対峙することになる、その6日前――エンゼルスを1安打に抑え込んだ、4月23日の試合後のことだ。松坂は次の登板がマリナーズ戦になることを知らなかった。
「そっか、次はイチローさんなのか……」
マリナーズとは言わずに、イチローさんと言うあたりが、いかにも松坂らしい。開幕当初は、順番通りにいけば松坂は4月のマリナーズ3連戦には登板しないはずだった。ところが、4月13日のレイズ戦が雨で中止となったことでローテーションがずれ、急遽、4月29日のマリナーズ戦に先発することになったのだ。
それにしても毎回、あれほど楽しみにしてきたイチローとの対戦を知らなかったなんて、今の松坂にはそれほど余裕がないのか、それとも単なるいつもの大物ぶりなのか、どっちなんだろうと考えてしまった。
それは、ローテーションの5番手として開幕を迎えた松坂が、いきなり2試合連続で無残なKOを喰らったからだ。ローテの座を守るどころか、地元メディアからはもうトレードに出すべきだとの声まで上がってしまい、松坂は開幕早々、断崖絶壁の厳しい立場に追い詰められた。
理想と現実の狭間に揺れつづけたメジャーでの4年間。
メジャーに来てからの、松坂の憂鬱――。
それは、日本で8年間かけて研ぎ澄ましてきた感覚を、いったんリセットしなければならなかったところに起因している。硬いマウンドと滑るボールに対応するフォーム、球数制限による打たせて取るための緩いボールなど、日本では求められることのなかったものを求められ、“レッドソックスの松坂”は“ライオンズの松坂”とは別のピッチャーにならざるを得なかった。
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