#752
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M・シューマッハー 「走る快楽に憑かれた男」 ~4年ぶりのF1復帰で見えてきたもの~

 91度の優勝、7度の世界王者。あらゆる栄光を手にしても、この男が充たされることはなかった。引退後もレースへの情熱は激しさを増すばかりで、不惑にしてついにサーキットに戻ってきた。
  往年の正確無比なドライビング、そして貪欲なまでの勝利への執念を、再び見られるのだろうか。

 3月12日、今シーズン開幕戦となるバーレーンGPの金曜日午前の試走が終わった後、ミハエル・シューマッハーは、メルセデスGPチームを担当するタイヤエンジニアのジェレミィに、「荷物をまとめて帰ろうかな」と不機嫌そうにつぶやいた。前日の定例記者会見で「2勝しているこのコースはどう?」と質問され、「3勝目を狙うよ」と笑みを浮かべてさらりと受け流した男が、翌日は表情を一変させてしまったのだ。

 初セッションの結果は10位。4年ぶりの走りにしては立派なものだと思うが、若きチームメイトのニコ・ロズベルグに0.4秒差をつけられたのが不満だったのか。速ければ素直に喜び、遅ければ不機嫌さを隠さぬ、直情的な性格は昔と少しも変わっていなかった。

 その後の試走は3位、4位と悪くなく、公式予選は7位で終える。「4年もF1から離れていたのに、この結果を出せて満足だ。偶然にもデビューした時と同じポジションだね」と、少し余裕を取り戻していた。

4年ぶりの開幕戦、レース勘はまだ戻っていなかった。

 通算251戦目となった決勝は、予選からワンポジション上げて6位でフィニッシュ。しかしここでもロズベルグに後れを取り、サプライズは起こせなかった。決勝後、取材陣の関心はもっぱらフェラーリ移籍後の緒戦を飾ったフェルナンド・アロンソに集中しており、開幕前に大騒ぎされたシューマッハーの存在は、どこかに霞んでしまっていた。

「予選からひとつ順位を上げたのは大したものだと思ったけど、バーレーンのマイケルは不機嫌だったね。彼はただ走るだけじゃ満足できない。常にトップに立っていたいんだよ」

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photograph by Mamoru Atsuta

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