オリンピックPRESSBACK NUMBER
“9年間無敗”藤波朱理22歳の異変…なぜ北朝鮮選手に完敗したのか? じつは初戦から大ピンチも…「階級の壁」「藤波対策」だけではなかった“敗因”
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2026/10/12 17:01
アジア大会準決勝で約9年ぶりの敗戦を喫した22歳の藤波朱理。連勝記録は「155」でストップした
その後、藤波はグラウンドのローリングやアンクルホールドを仕掛け、最終的には16-5のスコアで逆転勝利を収めたが、序盤の大ピンチに「異変」を感じていたのは筆者だけであるまい。付記すると、バトフヤグはパリ五輪の53kg級2回戦で完勝していた相手だった。
「完璧にやられました」対戦相手の“藤波対策”
問題は階級の差だけではない。ソンにしろ、バトフヤグにしろ、徹底的に藤波対策をしてきており、藤波はその策にハマっているように見えた。例えばソンの場合、藤波の手首を掴み自由を奪うことで、ある程度の距離をとってタックルに入りたい藤波の動きを完全に封じていた。
4歳のときから藤波を指導し、今回もチーフセコンドに就いた父の藤波俊一さんは「結構、本人にもプレッシャーがあったみたい」と振り返る。
ADVERTISEMENT
「いやぁ、完璧にやられました。(準決勝で闘ったソンは)手首を掴んで、接近して間合いをとらせない。試合前から『タックルに入らせない』作戦に来ると予想していたけど、その課題を克服できずに試合になってしまった感じですね」
わかっていたことではあるが、藤波は海外の有力選手から狙われる存在であることが今回改めて浮き彫りになった。初戦で闘ったバトフヤグのセコンドでは、かつて至学館大で女子レスリング王国を築き上げた栄和人氏がモンゴル代表の総監督として目を光らせていた。
栄氏はモンゴルの教え子に積極的に先に攻めることを心がけさせ、藤波の出鼻を挫いた。タックルに入れないことで藤波は自らのリズムを崩し、“歌を忘れたカナリア”になってしまったのか。
実はバトフヤグに思わぬ苦戦を強いられた時点で、筆者は「もしかしたら、またどこかケガをしているのではないか?」という疑念を抱いた。2022年9月には、世界選手権に遠征する直前に左足リスフラン靭帯損傷の診断を受け、同選手権への出場を断念せざるをえなかった。2024年3月には練習中に右ヒジを脱臼し、アジア選手権の出場を辞退した。練習も常に全力で打ち込む藤波の辞書に「無事是名馬」の格言はない。

