甲子園の風BACK NUMBER
「甲子園で燃え尽きて…」池田高校の優勝メンバーが明かす“苦悩の人生”その後「無性に苦しかった」「縁もゆかりもない高松に引っ越して楽に」
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/08/30 11:02
「甲子園優勝で燃え尽きて…」池田高校“あの主力メンバー”が明かす、その後の人生
「なんであんなに苦しかったんだろう」
「五年前に縁もゆかりもない高松に引っ越してきました、今の妻と一緒に。引っ越した理由は、監督をやっている(井上)力のところに顔を出せるというのもあったし、もう一つが、彼女がやりたいと言ったこの農業なんです。バリバリ働いて家を建てても満たされない感覚があったけど、今は不思議と充実感を覚える。それに、生き方ですかね」
「生き方?」
「今の妻に出会うまで、自分主体で生きてきました。でも彼女がやりたかった農業に自分も携わるようになって、人に引きずられていくという生き方があることを知った。それで一気に気持ちが楽になった。三〇代までなんであんなに苦しかったんだろうって考えたとき、『俺が、俺が』っていう生き方を変えたのが大きいような気がします」
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森は再び蔦の名前を出した。
「爺やんが酒を飲んでいたのも似た理由だったんじゃないかって思う。狂おしいまでに甲子園を追い続けた。一心不乱になって。特攻隊の経験もあったと思う。生き残ったのに何者にもなれない。そんな自分が腹立たしくて、狂ったように甲子園を目指したんじゃないかな」
蔦と森の間には明白な違いがある。主役であり続けなければならないという強迫観念から脱した森、主役であり続けた蔦。その差だ。
しかも、何者かになったとして、そこに何があるかは、何者かになった人間にしかわからない。
森が甲子園で浴びた何倍もの熱狂を、まばゆい光を、蔦は浴びた。無名の二〇年間を経て神様になった先に、蔦が見たものを想像すると、なにか空恐ろしいような気もした。
「蔦さんは私財をなげうって、というイメージだから」
「爺やんも野球部が大きくなって、いろんなことがコントロール不能になって、混乱しちゃった部分もあったのかもしれない。初出場、初優勝まではやりきれる。ただその先は、落ちていくしかないのを知りながら、足搔かなきゃいけないわけだから」
「蔦さんを告発しようとした部員がいたことは知っていましたか」とわたしは訊いた。
「知らなかったですね」と森は言った。
「蔦さんのことを、現場を放って金儲けに走るような人間ではないと思いますか」そう尋ねると、森の語気が少し強くなった。
〈本書4章から一部抜粋/第1回からつづく〉
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