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「これを機に新しい資格を」“名誉十段”加藤一二三が提言したことも…棋士が明かす将棋界「段位」の重み「レジェンドには十段になってほしい」
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph byTadashi Shirasawa
posted2026/05/21 11:02
故・加藤一二三さんに対して「名誉十段」を追贈することが発表された
〈私は昭和48年に九段に昇段してから700勝以上し、名人をはじめ多くのタイトルを獲得しました。今年3月には通算勝利が1200勝に達しました。そこで、これを機に私に新しい資格を与えてほしいと願っています。具体的には十段昇段の新規定を提案します。通算勝利が1000勝に達している内藤さん(國雄九段=59)や有吉さん(道夫九段=66)のためにも、制度化を考える時期だと思います〉
加藤が個人的なことで意見を述べるのはきわめて珍しい。座は水を打ったようにシーンとなった。この主張は、十段をタイトルの名称ではなく、正式な段位にするというものだ。ただ全体の昇段制度に関わるので、具体化するのは容易ではない。その後、十段昇段は制度化されず、加藤も言及することはあまりなかった。
最年少九段はもちろん藤井聡太、唯一の例外は…
物故棋士、引退棋士、現役棋士を含めた九段の棋士は約70人いる。
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最初の九段は、1954年に九段戦(竜王戦の前々身棋戦)で3連覇した塚田正夫。最年少の九段昇段は、2021年7月に18歳11カ月で昇段した藤井聡太二冠。藤井は「タイトル3期」の規定で九段に昇段した。
八段昇段後に「通算250勝」でも昇段する。唯一の例外は私こと田丸だった。
私は2013年4月1日付で九段に昇段した。ただ将棋連盟ホームページでは、ほかの昇段者が多かったせいで、個人名をすぐに確認できなかった。翌日の2日には私の当時のブログに、《九段昇段、おめでとうございます》というコメントが寄せられた。1日遅れの「エープリルフール」かと思った。念のために連盟の担当者に問い合わせると、本当に九段に昇段していたのだ……。
私は1991年に八段に昇段。以後は年間勝利数が10勝に届かなかった。2016年に規定によって引退するまで、通算250勝での九段昇段はあきらめていた。
連盟の担当者の説明によると、「フリークラス棋士」(私は2009年に転出)を対象とした特例の昇段規定があり、八段昇段後の勝利数と年数を組み合わせて九段昇段の要件に達したという。詳細は省くが、私はその規定の最初の該当者となった。
正直なところ、決まりが悪い思いがあった。飲み屋で初対面の人には、九段の中で下の方という意味で「九段下」(日本武道館が近くにある地下鉄の駅名)と冗談でよく言った。
レジェンド棋士には「十段」になってほしい
そんな私は、実績がはるかに上の加藤と同じ九段であることに引け目を感じていた。それだけに、このたびの名誉十段の追贈はうれしかった。ほかの「レジェンド」九段の棋士も、十段になってほしいと願っている。
6月6日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で、加藤のお別れの会が開かれる。第1部は関係者が参列する名誉十段の贈呈式(13時~14時)、第2部は一般の方の献花(15時~17時)。偉大な棋士を偲んでほしい。

