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父・井上真吾トレーナーがいま明かす「井上拓真vs.那須川天心」決戦前の舞台ウラ…記者会見を欠席した理由「自分と拓真の気持ちに温度差がありました」
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/12/17 17:00
技術と覚悟で那須川天心をねじ伏せた井上拓真
「練習の色の濃さです。拓真だってもちろん練習はしてます。でも、それはみんながやっていること。チャンピオンの中から頭一つ抜け出すにはもっと工夫しなくちゃいけないし、色濃くやらないといけない。自分はそこを求めてきた。けどなかなかリンクしない。それが温度差です。堤戦に限らず、その前からずっとそうでした。だから自分はいつも不満ばかりでした」
「ここで辞めたら後悔するんじゃないか」
この試合を終え、拓真には引退という選択肢もあった。幼いころに抱いた兄弟世界王者という夢は達成した。「辞め時」のタイミングとも言えただろう。真吾は本人がそう決めるのであれば受け入れるつもりでいた。中途半端な気持ちでやるなら、辞めたほうがいいとも思っていた。そして真吾の目に拓真は中途半端にしか映らなかった。一方で、父として、トレーナーとして、ここで終わってもいいのか、殻を破ってほしい、という期待も捨て切れずにいた。それだけの力があると信じてもいた。
「いろいろな考え方を提示しました。ここで辞めたら後悔するんじゃないか。将来はトレーナーを希望しているようだったので、選手として本当に一生懸命やれば、結果は別として、指導者になってよりいろいろなアドバイスができるんじゃないか。そんなことも言いました」
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最終的に拓真は現役続行を決意した。しかし、すぐに覚醒したかといえばそうではない。那須川戦が決まってもなお、真吾には拓真が変わったとは思えなかった。
転機が訪れたのは真吾が欠席した記者会見のあとだ。那須川と対面して拓真のスイッチが入ったのだろうか。真吾はようやく「同じ温度になった」と感じた。
「会見のあともいろいろ話して、気持ちが通じ合うのを待って、じゃあ明日からマンツーマンで走ろうよと。何年ぶりですかね。ロードワークに付き合うのは。そこからですね、一緒に突き進んだのは」
トレーニングに入ると真吾は拓真を徹底して追い込んだ。うまく気持ちを乗せ、限界を超えさせようと努めた。拓真は外せないでいたリミッターを外した。以前はダッシュして落ちてきたところから盛り返せず、粘れずにいたが、ギリギリのところで踏ん張れるようになった。
確かな手ごたえを感じて那須川天心戦に
真吾から見た拓真は今までの「歯がゆい」次男坊ではなかった。それは父のゆるぎない覚悟と献身が息子の心に届いた証でもあった。計量前日、一人で最後の汗抜きを終えた拓真から一本のラインが入った。
「とりあえず今日までありがとうございます」
もがき続けた親子は今までにない確かな手ごたえを感じて試合当日を迎えた。
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