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「ネガティブではない、求められる場所でがんばる」カープ栗林良吏が来季先発に転向するチーム事情と、新井貴浩監督の決断の背景
posted2025/10/27 11:00
今季は55試合に登板、10セーブ23ホールドの成績を残した栗林
text by

前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
広島の栗林良吏はプロ6年目を迎える来季をまっさらな気持ちで臨むことになった。今季まで登板した全271試合はすべてリリーフで、すでにNPB通算23位の134セーブを挙げ、ホールドも56を記録している。リリーバーとして生きてきた右腕が、来季から先発に転向することが決まったのだ。
今季終了後、新井貴浩監督が明かした。
「昨季終了後も考えはあった。もともと社会人で先発をしていた。球種も豊富だし、クイックもできるし、フィールディングもいい。これまでは1球も無駄にできない状況で投げてきたけど、いい意味で遊びができるようになれば投手としての幅も広がると思う」
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九里亜蓮がFA移籍して軸となる先発が1枚減ったチーム事情もある。ただそれ以上に、指揮官の言葉からは栗林への再生の期待がにじんでいた。
今季は苦しい時間が長かった。昨年10月に右肘のクリーニング手術を受け、投球フォームを一から見つめ直した。シーズン開幕は抑えの役割を担ったものの、4月5日のDeNA戦で1イニングを投げきれないまま5失点すると、翌日はセーブを挙げながらも2点を失った。5月13日からはテイラー・ハーンとのWストッパー態勢となり、7月に入るとその形も崩れた。だが、登板を重ねるごとに栗林は次第にマウンド上での躍動感を取り戻していった。
7月29日の阪神戦までリードされた状況での登板が6試合続いたのは、試合の流れを変えるゲームチェンジャーとして期待されての起用だった。新井監督は投手としての能力だけでなく、野球に取り組む姿勢やチームに与える影響力、そして存在感を認めている。先発転向も、まさにその一手といえる。
栗林を支えてきた思い
栗林は実は入団2年目まで「先発したい」と思うことが何度かあった。それは投手としての向上心というより、抑えという過酷なポジションを任されたがゆえの弱音だった。
「順調なときは何も思わないですけど、打たれたときとかネガティブな状況になればなるほど、先発投手をやりたいな……と。自分の気持ち、感情から逃げようとしていた。3年目からは自分の立場と役割、何とか結果を出したいという気持ちが強くなって、そう思わなくなった」
責任感が増しても、輝かしい実績に驕ることはなかった。常に頭にあるのはチームのために腕を振ること。だから今季、出番が最終回でなくなっても受け入れることができたし、そこへの執着も消えた。
「抑えを外されてすぐは戻りたい気持ちもありましたし、戻るために結果を出したいと思ってやっていました。でも戻るということは、ほかの投手の不調を待つことでもある。戻るよりも、新井さんが起用しやすい選手になりたいなと思うようになった。どの場面でも最初に名前が挙がるような選手になりたいなと。そこで自分の立ち位置を確立していくことが大事だと思った。求められるところで求められたものを出せればと思っていました」

