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プロ野球PRESSBACK NUMBER
国も野球も「守りから入れ」! 剛球始球式の海上保安庁・瀬口良夫長官が高校野球に学んだこと…「あのとき恐怖心で登板しなかった後悔が原動力」
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/09/25 11:05
海上保安庁の長官室で投球フォームを披露してくれた瀬口長官。今も仕事の原動力になっているという野球からの学びとは?
ソ連警備船が近づいてくる……!
「早く戻りなさい! と必死に言うんですけど、魚が獲れるのでなかなか網が上がらない。そうこうしているうちに、霧の中からソ連船がこちらに近づいてくるドドドドというエンジン音がはっきり聞こえてきました」
無我夢中で「(ソ連船が)来てるぞ!」と声を張り上げ続ける。霧の中からついにソ連警備隊の船が現れ、振り返ったその瞬間……。
「今でもはっきりと思い出せるくらい、目の前にソ連の警備隊の船が迫っておりました。結果的には漁船がすぐに退去したことで何事もなくおさまりましたが、国境警備がいかに厳しく尊い仕事かということを実感した忘れられない出来事でした」
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その後は東京の本庁と新潟、福岡、山口、舞鶴、鹿児島などを行き来しながら、第9管区海上保安本部長、海上保安監などを歴任。昨年7月に海上保安庁長官に就任した。国土交通省のキャリア官僚出身ではなく制服組出身の就任は2年ぶりで、厳しい現場を幾度も経験してきた“叩き上げ”の指揮官には大いに期待が集まっている。
野球で得た仕事の原点「守りから入れ」
海での経験はもちろんのこと、瀬口長官は自身の「原点」として高校野球から得たものが大きいと言う。
「人格形成という意味では、間違いなく高校野球で土台が作られたと思っています。特に思い出すのは、監督からよく言われていた『守りから入れ』という言葉ですね。アウトにできることをアウトにする、フォアボールを出さない、エラーをしない……隙のない守備をすることによって野球自体が締まり、相手にプレッシャーを与えることができる。そのうえで少ないチャンスをしっかり生かしていけば、僕らの県立高校のように地力の差があっても勝つチャンスは広がっていくわけです。
これは今の仕事をする上でもとても大切なことです。海を守る、国を守る、国民を守るという仕事をしているので、その中で常に隙を見せないことが犯罪者を寄せ付けないことにつながる。重要施設や尖閣諸島の警備であろうが、北方四島であろうが、やはり隙のない守りをしていくことが大事なのだと思います」
〈前編も公開中です〉


