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金髪フィアンセとのキスシーンに騒然? 高校時代はアウトサイダー、「アメリカを捨てた男」と中傷も…世界陸上で話題の棒高跳・デュプランティスとは何者か
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生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/09/16 17:01
世界陸上男子棒高跳で6m30cmの世界新記録を達成したスウェーデンのデュプランティス。「新鳥人」はいかにして成長したのか
そしてこの時期は、アメリカのサム・ケンドリクス(彼も裏庭で父の指導を受けた)との争いが激しくなり、2019年ドーハ世界陸上ではケンドリクスが金、デュプランティスが銀。
スウェーデンでの人気は上がる一方、アメリカ国内のSNSでは「アメリカを捨てた男」、「似非スウェーデン人」、「アメリカの代表選考会が怖くて逃げた」などと中傷を受けるようになる。実は父のグレッグは、4度アメリカのオリンピック・トライアルに挑戦し、4度失敗した過去を持っていた。SNSの世界では、そうした父の傷をえぐる投稿があった。
2020年に室内で6m17を跳んで初めて世界記録をマークすると、2021年の東京オリンピック以降は無双状態に。
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父は「棒高跳びという種目は、高く跳び、太陽に近づこうとする種目です」と話すが、2022年に6m20をクリアすると、2025年9月15日、東京で6m30をクリアし、太陽、いや、月に最も近く跳んだ人類となった。
世界陸上で見られた「胸熱シーン」
いまや、競技会でデュプランティスの勝ちは揺るがず、孤独な戦いを続けているように思えるが、世界の舞台では少なくとも仲間がいるように見える。
今回もケンドリクスが5m95のシーズンベストをクリアして喜びまくっていると、自分のポールを回収するのをすっかり忘れてしまっていた。すると、デュプランティスが静かに彼のポールを回収していたのだ! これはちょっといい光景だった。
そして世界中の歓声を一身に集めた6m30の成功のあと、棒高跳びの仲間たちから祝福され、スタンドに向かった。そこには、スウェーデンでモデルの仕事をしている婚約者、デシレ・イングランデルが待っていた。ハグ、そしてキス。
デュプランティスにとっては、完璧な夜だっただろう。
そして競技を見終わって、駅に向かう人たちは、みんな幸せそうな顔をしていた。
自分たちは、素晴らしい瞬間に立ち会ったのだと。


