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「表彰台に嫌われた男」37歳のベテラン、ニコ・ヒュルケンベルグがF1キャリア初の3位獲得「シャンパンファイトのやり方は忘れてなかった」
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2025/07/08 17:00

キャリア初の表彰台で、満面の笑みを浮かべて歓声に応えるヒュルケンベルグ
しかし、この日のヒュルケンベルグは6年前とは別人のように強かった。
「ハミルトンを応援しに駆けつけた母国の観客の皆さんには申し訳ないが、今日は僕の日だと言い聞かせながら走っていたよ」
限界を探りながらも攻めの走りを見せつつ、ミスなく冷静にマシンをコントロールしたヒュルケンベルグは、最後までハミルトンを寄せ付けず、マクラーレン勢2台に続いて3位でフィニッシュした。
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2010年のF1デビューから239戦目にして初めてつかんだ表彰台。ほかのカテゴリーのレースを含めても、15年のル・マン24時間レースでの優勝以来、10年ぶりの表彰台だった。
この表彰台はヒュルケンベルグ以外の者にとっても、価値を持つものとなった。まずチームであるキック・ザウバーにとっては、12年日本GPでの小林可夢偉の3位以来となった。
新たなヒュルケンベルグ時代へ
ドイツ人にとっては21年アゼルバイジャンGPでセバスチャン・ベッテルが2位となって以来、4年ぶりの母国出身ドライバーの登壇となった。
また19番グリッドからの表彰台獲得は、キック・ザウバーの歴史上、最も後方からスタートしての快挙となった。
「正直、まだ現実を全て受け入れられていない」と語りつつも、ヒュルケンベルグは「シャンパンファイトのやり方は忘れてなかったよ」と、F1で初めての美酒に酔いしれていた。
17年のシンガポールGPでエイドリアン・スーティルが残したデビューからの表彰台未登壇記録128戦を抜き、単独トップに立つ不名誉な記録を作ってしまったヒュルケンベルグは、当時こう言って笑った。
「エイドリアンの記録を更新するために、僕は長い時間戦ってきた。今週末、ようやくその日がやってくる。スーティル時代に幕を下ろし、これからはヒュルケンベルグ時代がスタートする」
それから8年後のイギリスGPで、表彰台未登壇記録保持者という“ヒュルケンベルグ時代”は幕を閉じた。“新たな時代”にはどんな時代が待っているのか。ベテランのキャリアはまだ期待に満ちている。

