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井上尚弥を“苦しめた敗者”カルデナスに新事実…じつは「井上のスパーリングパートナー候補」だった男は、なぜ怪物からダウンを奪えたか?
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/05/08 11:03
戦前の予想を覆し、王者・井上尚弥からダウンを奪うなど果敢な闘いを見せた挑戦者カルデナス
Uber配達員などのアルバイトをしながら…
届いたオファーはパートナーではなく、4団体統一王座の挑戦者だった。一報を耳にしたときの心境を本人は次のように語っている。
「願ってもないチャンス。断るなんて考えもしなかった」
ボクサーのだれもがそう考えるわけではない。スーパーバンタム級世界ランキングの上位に位置していれば、井上がいずれフェザー級に上げ、4団体王座がすべて空位になるまで待つという「賢い」選択肢もある。井上を避けたほうが世界チャンピオンになれる確率が高いことは言うまでもないだろう。たとえ本人が望んだとしても、マネジャーになだめられるケースもよくあることだ。
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カルデナスはアマチュアで106戦86勝20敗のキャリアを持ち、2015年にプロデビューした。そのキャリアは決して華々しいものではなかった。有力なマネジャーやスポンサーはつかず、Uber配達員などのアルバイトをしながらボクシングを続けた。
10年以上同じグローブ、ヘッドギアで…
事態が好転したのは23年に現在のマネジャー、マイケル・ミラーと契約を結んでからだ。同年9月、無敗の世界ランカー、ラファエル・ペドロサにKO勝ちすると、腕利きトレーナーのジョエル・ディアスとの新たなコンビでその後もランカークラスに連勝。世界ランキングを上げたのである。
アルバイトはしなくて済むようになったが、グローブやヘッドギアなどのボクシング用品はプロ入り以来、同じものを10年以上使い続けた。関係者によると2年前、初めての海外旅行で訪れた日本で日本製ボクシング用品を購入しようとしたところ、在庫がなくてがっかりしたというエピソードがあるのだという。
日の当たらないキャリアを送ってきた伏兵は一世一代のチャンスに燃えた。ボクシング人生のすべてを捧げ、井上撃破に向けたトレーニングに没頭した。こうして夢だったラスベガスのメインイベントに満を持して挑んだのである。

