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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「マシンガンとライフルの対決」寺地拳四朗とユーリ阿久井政悟の“歴史的名勝負”「じつは11回にあった」異変…長谷川穂積が察知した“壮絶KOの予兆”
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/03/18 17:35

歴史的な名勝負となった寺地拳四朗とユーリ阿久井政悟によるフライ級2団体統一戦。長谷川穂積さんが語る「勝負を分けたポイント」とは
長谷川穂積の目を引いた「阿久井の巧さ」とは
序盤は阿久井が積極的に攻めながら、寺地ものみ込まれることなく、状況に対応して試合を組み立てた。互いに引かず、激しいペース争いが展開された。
「寺地選手はしっかり切り替えて、いろいろ考えてボクシングをしていました。キャリアを感じました。ただ前半、目を引いたのはやはり阿久井選手の巧さです。1発もらっても2発目をもらわない、2発もらったとしても3発目をもらわない。めちゃめちゃ揺れるサンドバッグは3発目、4発目が当たらない。そんな感じです。具体的には接近戦でもしっかり頭を振っていた。寺地選手を波に乗せませんでした」
寺地はアップテンポなボクシングで、1発、2発とパンチを当て、それを3発、4発と増やしてグイグイとペースを引き込むのが得意だ。阿久井は頭を振るだけでなく、攻撃は最大の防御とばかりに先手を取ったところも見逃せない。
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「打たれたら必ず打ち返す。あれだけノーモーションで手数を出してくる相手に打ち返すって難しいんですよ。普通は相手の攻撃が終わるまで待って打ち返す。あるいはカウンターを取る。それを打ち終わるのを待つのではなく、どこかのタイミングで必ず打ち返していた。気迫ですね。これは非常に功を奏しました」
阿久井は徹底して作戦通りのボクシングを遂行した。そして寺地は苦しみながらも対応した。寺地の戦い方にも長谷川さんは感心した。
「6ラウンドまでは阿久井選手が4つ、寺地選手が2つくらい取ったように見えました。そうした状況で、寺地選手は後半に入ると、脚を使ったり、打ち合ったり、さすがだなと感じさせるボクシングでした。自分の打ちたいときに打てるのが寺地選手の良さです」
阿久井は執拗にプレスをかけ続け、寺地も引かずに試合が進む。両者の気持ちと技巧が激しくぶつかり合い、「どちらの盾も傷つきながら穴が開かない」状態でラウンドは進んだ。
劇的なTKO…ポイントは11回の攻防にあった?
スコアが読めず、阿久井がやや優勢と思われた終盤に思いがけないドラマが待っていた。寺地が最終回、30秒すぎに右ストレートを阿久井のアゴに叩き込み、ダメージを受けた阿久井の足元が揺れる。すかさず寺地がラッシュ。阿久井も踏ん張り、ここからおよそ1分、手に汗握る攻防が続く。
そしてついに寺地の連打が決まると、中村勝彦レフェリーが割って入り、寺地のTKO勝ちが決まった。この結末は長谷川さんも予想できなかったのではないだろうか。そう問うと長谷川さんは「そうなんですけど、ただね……」と切り出した。ポイントは11回の攻防にあった。
<後編へ続く>
