濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「泣かせてやりますよ」“負傷欠場の過去”が生んだ悲劇…上谷沙弥の“騙し討ち”でベルトを奪われた中野たむの本音「今はもう憎しみしかない」
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/02/02 17:00
上谷沙弥にベルトを巻き、崩れ落ちた中野たむ
「上谷にそれができますかね?」
チャンピオンらしく、上谷のすべてを受け止めようとしてたむは敗れた。それだけ上谷はしたたかだった。ではたむは何を武器にするのか。スターダムへの愛だと彼女は言う。
一昨年はたむもヒザのケガで長期欠場。引退も考えた。復帰を決断したきっかけは、東京スポーツ認定の女子プロレス大賞に選ばれたことだ。客観的に見たスターダムのプロレスは、どんなエンターテインメントよりも輝いていた。昨年2月、支えてくれた人たちに恩返しがしたい、スターダムをもっと盛り上げたいという気持ちでリングへ。
ところが、復帰戦の日に団体創設者のロッシー小川氏が契約解除に。春には複数の選手が退団、小川氏の新団体に合流した。その中には、たむの最大のライバルであるジュリアもいた。
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スターダムを何とかしなければいけない。たむはそう考えるようになった。上谷戦の前にも「スターダムを守る」とコメントしている。
「赤いベルトのチャンピオンはスターダムを引っ張る存在。自分が上がるだけじゃダメなんです、みんなを上げていかないと。上谷にそれができますかね?」
スターダム社長の発言に、たむがショックを受けた理由
7月にはこんなこともあった。
後楽園ホールでの平日興行の観客動員が振るわず、2023年12月から社長を務めている岡田太郎氏が新たな目標を設定したのだ。曰く、後楽園ホールでの観客数は「1000人を割らないことを目指したい」。
これがたむにはショックだった。
「選手が抜けたりいろいろありましたけど、今のスターダムはそんなに目標が低くなってしまったのかって。後楽園満員は当たり前、両国国技館を満員にして東京ドームを目指すのがスターダムだと思っていたので。でも、お客さんが少ない興行があったのも事実で……」
スターダムは私が絶対に立て直すと誓った。そのためにはチャンピオンとして飛び抜けた存在であり続け、選手もファンも引っ張らなくては。
「団体の飛躍にはスターが必要だと思うんです。もの凄い光とエネルギーを放出するスター。その光で周りの選手も照らされるような。私がそれになるしかない」
これからは、過去のスターとは違う魅力も必要になると考えている。SNS、とりわけ瞬間的に消費されていく短時間の動画をどう活用していくか。答えは見えていないが、時代と向き合うことは絶対に必要だ。
スターダムのためになら、大げさでなく命をかけてもいいとたむ。その覚悟、決意は確実に伝わっている。年が明けるとスターダム年間表彰でたむ率いるコズミック・エンジェルズがベストユニットに選出された。
『週刊プロレス』の読者投票「プロレスグランプリ」では女子1位に加え男子も含めての全体2位にランクイン。ベストマッチ、ベストユニットで1位、「好きなプロレスラー」では棚橋弘至に次ぐ2位となった。
赤いベルトを失っても、評価は少しも下がっていない。王座奪還に成功すれば3度目の戴冠。同王座の最多戴冠記録になる。中野たむは使命感とともに、前人未到の地へと突き進む。
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[追記]2月2日のスターダム後楽園ホール大会、メインで上谷沙弥が王座防衛に成功すると中野たむがリングへ。赤いベルト再挑戦を表明した。ベルトを失って1カ月ほどという短期間。それだけたむの怒りが強かったということだ。上谷は挑戦権をかけてのタッグ対決を提案。2.24宇都宮大会でたむが勝てば挑戦が認められることになった。



