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「行ったり来たりは本当にやめてほしい」トヨタとハースの業務提携の背後でかわされた、モリゾウと小松代表の本音のぶつかり合い
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2024/10/25 11:00
ハースのマシンとともに記念写真に収まる、(左から)小松礼雄代表、豊田章男会長、GRカンパニーの高橋智也プレジデント
「レーシングドライバーたちと話していると感じることは、やっぱりみんな『世界一速いクルマに乗りたい』と思っているということです。ドライバーとはそういう生き物なんだと思います。ですが、私はF1をやめた人……。ドライバーたちは、私の前でその思いを素直に話すことができなかったんだと思います。私もF1撤退で日本の若者が一番速いクルマに乗る道筋を閉ざしてしまっていたことを、心のどこかでずっと悔やんでいたのだと思います」
昨年の9月、トヨタ育成出身でTGR WECチームのドライバーとして世界耐久選手権などを戦っている平川亮がリザーブドライバーとしてマクラーレンと契約を結ぶことが発表された。これはもちろん、トヨタが関わったことであり、ドライバーがF1を目指す道を再び切り開こうとする姿勢の表れだった。
ところが、豊田会長が平川と中嶋一貴、小林可夢偉の3人とともに鈴鹿サーキットを歩いていたとき、ファンから声がかかったのは「モリゾウさん」だった。
「私よりもハンドルに近い人間が、もっと主役にならなきゃいけない。そのためには主役になる場所を作ってあげなきゃいけない」
そう強く感じた豊田会長は、今年に入ってTGRのスタッフが交渉を進めていたハースF1の小松礼雄代表とトップ会談を実施することを決意した。
世界を舞台に戦う2人の本音
6月に初めて小松代表に会った豊田会長が驚いたのは、その実直な人柄だった。
「お会いしたとき『本当に今日、初めてでしたっけ? 前にどこかでお話ししませんでしたっけ?』と思うくらい、小松代表が部屋に入ってきた途端にいろいろな話が進みました」
小松代表からは、「(モータースポーツ)文化を作っていかなきゃいけないのに、日本のメーカーというのは行ったり来たりして……そういうことは本当にやめてほしい」と、トヨタのF1撤退に対する言及もあった。