早期決着の可能性も想定していましたが、両者ともに慎重だったので「そんなに簡単な試合じゃないな」と。井上選手はガードの上から強打を打ったり、あえて打たせてみたり、体重の重い相手との戦いで何かを試しているような気配もありました。

ボディを意識してガードが下がったドヘニーに右をヒットさせる　©Naoki Fukuda

間違いなく効いていたボディ「7、8ラウンドで終わる」

　3、4ラウンドとドヘニー選手につけたジャッジもいましたが、あのあたりのラウンドは井上選手が意図的に打たせていることがよくわかりました。それもスウェイやボディワークで受けると相手が前に出る隙間ができるので、あえてブロックの上から打たせていた。それでいて一発も食らっていませんでしたね。結果的にドヘニー選手は手札がどんどんなくなっていった。戦術的なレベルの高さを感じました。

　リングサイドで撮影していて興味深かったのが、ロープに詰められたドヘニー選手がしきりに何かを喋っていたこと。それも「カモン！」みたいな単語ではなくて、文章で。井上選手は我関せず、といった雰囲気でしたが、おそらく挑発か、自らを鼓舞するフレーズだったんでしょう。

井上尚弥の右ストレートでドヘニーの顔が跳ね上がる　©Naoki Fukuda

　正直、両者のスピードはだいぶ違うなと感じました。井上選手のパンチが圧倒的に速くて、強くて、タイミングもいい。特にボディへの右ストレートがすさまじく速かったですね。ドヘニー選手もガードが上手いので上へのパンチはよくディフェンスしていましたが、ボディはかなり効いていました。フック軌道の左ボディも含めて、ドヘニー選手の体の右側を重点的に攻めていたので、間違いなくダメージは蓄積されていたと思います。

ドヘニーの「体の右側」のボディを徹底的に攻める井上尚弥　©Naoki Fukuda

　ボディが効いてきて、5、6ラウンドとドヘニー選手が被弾するシーンも増えていきました。特に6ラウンドは井上選手がギアを上げたので、顔面への右も何発か入っていた。ドヘニー選手がかなりひるんでいるのがリングサイドからもわかりました。6ラウンドの最後のラッシュの場面は、完全に殻にこもってしまった。このあたりで「7、8ラウンドで終わる」という予感がありました。

【次ページ】　カメラマンが見た「ドヘニーの心が折れた瞬間」