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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「会場が静かすぎる…」馬術でいったい何が?「ヴェルサイユ宮殿がほぼ見えない」「棄権した日本の人馬に拍手」記者が体感した“パリ五輪の馬文化”
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byGetty Images
posted2024/08/20 11:39
パリ五輪の馬術競技が行われたヴェルサイユ宮殿アリーナ。写真は障害飛越個人で金メダルを獲得したドイツのクリスティアン・ククク
なぜ? 棄権した日本人選手と愛馬にも“温かい拍手”
他の会場に比べ、踊りまくったり叫び声をあげたりするような熱狂はないが、温かな雰囲気を感じるシーンがあった。8月6日の障害飛越個人決勝、日本代表のハーゼ柴山崇と愛馬のカラメルM&Mが演技を途中でやめたときのこと。飛び越したバーが落ち、カラメルが速度を緩め、場内の中央で止まる。徐々に拍手が大きくなっていき、ハーゼ柴山が労うようにカラメルの首を撫でると、さらに大きな喝采が人馬に降り注いだ。まるで重賞を制した後の競馬場のような雰囲気。その決断を称えるように拍手が包み込む光景は強く印象に残った。
レース後、柴山はその決断について、馬術では若い年齢に当たる10歳という馬齢に言及し、こう語っていた。
「昨日、大きなコースを走って、まだ10歳なのでかなり疲れもあったと思います。体の強さも成長途中ですし、どうしても回復するのが難しい部分がありました。なので、今日は少ししか力が残ってなく、途中棄権という判断をしました。カラメルは予選を通過してくれて、トップ30に残れた。僕の夢を叶えてくれたんです。だからちゃんと舞台に立った上で休みを与えたかった。本当に幸せな時間でした。カラメルには『キミは本当に素晴らしい。僕の夢を叶えてくれてありがとう』と伝えました」
場内の拍手、歓声はどう感じたのか?
「とてもフェアで、誇り高い感じがしました。観客はすべての人馬を応援していました。自分たちのように途中棄権したペアに対しても背中を押してくれるような応援を送ってくれた。今までこんな経験はしたことなかったですし、予選もそうでしたが、本当に信じられないほど素晴らしい経験でした」
子ども連れも多くいた会場だが、不思議と馬を見ても騒ぐことなく落ち着いていた。大きな音やフラッシュに驚いて反応する馬も多いため、気候はやや暑いが、理想の競技環境と言える。しかも、筆者が見る限り、「お静かに」などの文字ボードでの警告はなく、観客たちの自律心によって静寂が訪れていた印象だ。パリの街中では信号無視が多発している割に、馬術を見る際は一貫して理解がありルールを守る姿勢に驚いた。いったい、なぜこのような環境が成り立っているのか?
<続く>