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「圧倒的にリードの練習量を増やしました」野中生萌が挑む2度目の大舞台。パリの先に見据えるクライミングの未来と抱く決意
posted2024/08/01 11:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
頂上を目指して。少しでも高みへ――その姿勢は、4年に一度の大舞台、パリの地を目指す戦いでも変わらなかった。スポーツクライミング・ボルダー&リードパリ2024オリンピック日本代表、野中生萌は挑戦をやめない姿勢を貫いた。
3年前の夏、東京2020では銀メダルを獲得。
「あらためてこの結果を残せてよかったと思います。東京で獲れたからこそ、次も獲りたいという思いが出てきました」
世界を転戦しながら自分と向き合いつかみとったパリへの切符
心を新たに、パリ2024を目指してきた。ボルダリング(現ボルダー)、スピード、リードの3種目で行われた東京2020とは異なり、スピードが分離しボルダー&リードで行われることになって強化の方向も変わった。
「技術的なことの前に、圧倒的にリードの練習量を増やしました」
課題としてきたリードを重点的に練習。オブザベーションの仕方や登り方の細かい修正は、試合に出るたびに、その中で吸収・変化させていった。
日本には有力選手が複数いる。代表争いは熾烈を極めた。2枠のうち先に1枠が決定。野中は残る1枠を巡り、世界を転戦した。
それは自分を強くする時間でもあった。
「これは誰かとの戦いではなく、自分との戦いであるということをあらためて理解できました。競技や自分自身に深く集中するためにはどういった心持ちであるべきか、どんな準備が必要かなど、学びがありました」
自分と向き合い、自分を高める中でつかんだのがパリへの切符だった。
トップを走ることで広めたいクライミングの魅力と楽しさ
その過程で力になったのは「次もメダルを獲りたい」というモチベーションとともに、何よりも、クライミングそのものへの思いだった。
東京2020の前、野中は抱負をこう語っていた。
「新種目として採用されて、競技としての注目が高まりました。でも私の好きなクライミングってもっと違うところだと思って。みんなでわいわいやれるのも良さだし、競技だけじゃない楽しさがあるんだよと伝えたいんですね。自分がトップを走ることで、そういうことも発信できます」
人生をかけて打ち込んできたクライミングの魅力を広めたいという願いがあった。