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<龍角散presents エールの力2024③>「ぼくは日本をバスケットの国にしたい、できますよ」。トム・ホーバスは大歓声の力で日本人プレーヤーを輝かせる
posted2024/06/07 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
2021年東京の夏、バスケットボール女子日本代表チームのヘッドコーチ、トム・ホーバスは史上初となるメダル獲得の喜びにひたりながら、ふと思った。
「コロナで無観客だったけど、すばらしい結果を出すことができた。いつもとちがう環境の中でも、選手たちもプレーに集中できたとか、ウチのプレーを出すことができたと言っているから、もう声援がなくても勝てるのかもしれない」
無観客でなければ、東京で金メダルだったかもしれない
あれから3年が経ったいま、男子日本代表HCとなった彼は当時の自らの思いちがいを素直に認める。
「東京が無観客じゃなくて地元のファンの後押しがあったら、もしかしてぼくたちはファイナルで勝てたかもしれない。それくらいファンの歓声には大きな力があります。ファンは絶対にいたほうがいい。それは間違いないです」
価値観の大転換。声援がなくても勝てるという思いは、なぜ、声援があるからこそ勝てるに変わったのか。そこには沖縄での忘れられない体験があった。23年夏、沖縄が舞台となった男子ワールドカップだ。
女子代表を世界2位に導いた彼はその後、男子代表のHCに就任し、沖縄でのワールドカップで3勝を挙げる。32カ国中アジア最上位となる19位となったことで、今夏パリで開催される大舞台への出場権を獲得した。
ワールドカップでの3つの勝利は、いずれも鳥肌が立つような激闘から生まれた。
1次ラウンドのフィンランド戦は、最大18点差をひっくり返しての大逆転勝ち。前身の世界選手権を含む、大会史上初となるヨーロッパ勢からの歴史的勝利となった。
17~32位決定戦では、格上ベネズエラに第4クオーター残り8分で15点差をつけられていたが、怒涛の巻き返しでまたもや逆転。一方、カーボベルデとの最終戦は、第3クオーター終了時点で18点差をつけながら、一時は3点差に迫られるスリリングな展開での勝利となった。
この3つの勝利は、地元沖縄の人たち、そして全国から駆けつけたファンの後押しなくしては考えられないとホーバスHCは力説する。
「フィンランド戦もベネズエラ戦も日本は大差で負けていたけど、そこからカムバックした。そこで効いたのがファンの大歓声です。あれはすごかった、ほんとにすごかった」
ファンの声は、酸素です。選手を熱く燃やしてくれる
バスケットの試合ではとくに近年20点差がついていても、一気に逆転するようなケースが起きる。その怒涛の流れは、アリーナに充満するファンの大歓声によって生まれるとホーバスHCは言う。
「ファンの声はオキシジェン、そう、酸素のような働きをします。フィンランド戦なら富永(啓生)選手が、ベネズエラ戦では比江島(慎)選手が終盤に熱くなったでしょう。だれかが当たり出したら、ぼくはその選手を中心にゲームを組み立てるし、チームメイトもボールを集めようとする。そして彼らがシュートを立て続けに決めたりすると、ファンがさらに盛り上がる。その大歓声が酸素となって、熱くなった選手をさらに燃え上がらせるんです。そうなったら、15点差、20点差なんてあっという間。ホームアドバンテージがあると、ファンのエネルギーが勢いを倍増させてくれる」