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敗戦後の伊藤美誠(23歳)は涙が止まらなかった…心身ともに苦しんだ選考過程、明かした葛藤「金メダリストが“五輪シングルスに落選するまで”」
posted2024/01/29 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
涙が止まらなかった。
1月26日、卓球の全日本選手権5日目。伊藤美誠は6回戦で敗れ大会を終えた。それはパリ五輪シングルス代表の切符を手にすることができなかった瞬間だった。
「明日の赤マットで試合をしたかったという気持ちが大きいです」
準々決勝以降行われる赤マットの上に立てなかった思いが、まず言葉になった。
初戦からフルゲームの戦いが続いていた
パリ五輪代表選考の最後の大会だった。
開幕を前に、上位2名がシングルス代表に選出される選考ポイントのランキングは1位に早田ひな、2位平野美宇、3位伊藤美誠がつけていた。ポイント的にすでに1位が確定していた早田に次ぐ2番目を目指す平野と伊藤の差は逆転できる範囲内にあった。両者が決勝に進めば与えられるポイントから逆転できない。ただ、逆転のためには少なくとも平野より好成績を残す必要があった。
縦並びで互いの様子も見える位置関係で平野と伊藤は試合を進める。平野が先に6回戦を勝利で終えて引き上げる。木村香純と対戦した伊藤は3-1とリードして迎えた第5ゲーム、10-8のマッチポイントを握る。だがここから逆転され失うと、続く第6、第7ゲームも失い、敗れた。
初戦の4回戦、5回戦ともに4-3とフルゲームで勝ち上がっての6回戦だった。
「肋骨にヒビが入ったんじゃないかという状態で…」
「初戦からフルゲームで最終試合は勝ち試合だったところをフルゲームにしてしまいました。3-3になる前に仕留めるべきだったと自分では分かっていて」
万全なコンディションではなかった。昨年12月のWTT女子ファイナルズ名古屋から出ていた咳は1月1日からぶり返して止まらない状態になった。
「肋骨にヒビが入ったんじゃないかという状態で、息を吸っても痛い、寝転んでも痛いという状況でした。やっとこの2、3日前に3割くらいの痛みになって。耐えて耐えて耐えようと思っていたんですけど、最後自分で耐えることができなくて、大きな目標にしていたオリンピックへの道が閉ざされてしまいました」
今大会を前にしてのコンディションにとどまらず、ここまでの過程そのものが苦しい時間だった。