臆するところは何もない。今さら何かを怖がる必要もない。全員が結果を残したレスリング一家だからエリートと思われがちだが、挫折と無縁だったわけでもないのだ。

　レスリングでは世界選手権で3度の優勝。全日本選手権は5連覇を含む8度の優勝を果たした。ただ活躍した時期は五輪競技になる前。オリンピック出場は叶わなかった。

　MMAではデビュー戦でRENAに一本負け。初勝利は3戦目で、その後も連勝あり連敗あり。決して順風満帆ではなかった。MMAという新たな戦場で悪戦苦闘しながら強くなっていく40代の姿を、ファンは見てきた。

「確かにエリートではないですよね。なのにここまで続けることができたのも、与えられた性格があったからかな。もちろん落ち込むこともあるんですよ。でも続かないんです。落ち込むことに対しての集中力がない（苦笑）。

　落ち込んでも、結局これが自分のやりたいことなので。頭でも体でもそれが分かってるんです。だったら落ち込んでる時間がもったいないですよね」

引退試合の相手・伊澤星花は強敵だが「自分らしく闘いたい」と語った　©Norihiro Hashimoto

引退後の生活は「まるで想像がつかないです」

　大晦日の伊澤戦が終われば、もう試合をすることもなくなる。練習で徹底的に自分を追い込むことも。来年以降どんな気持ちで生きていくのか、正直いまはまったく分からないそうだ。

「まるで想像がつかないです。試合も練習もない自分は何をしたくて、何が必要なんでしょうね。今はとにかく試合に集中します。大晦日に勝ったら、世界がどんなふうに見えるのか。その時に見えた光景から、これからの人生が決まってくるような気がしますね。また格闘技をやりたくなるかも？ それすら分からないです（笑）。“やっぱりもう一回”ってなったらみんな驚いちゃいますね」

　引退後について何も想像できないのは、きっと“お手本”がないからだ。山本美憂のような人生はほかにないのである。

「自分にしかできない人生の歩き方をしてきたと思います。それを分かってくれる人がいたのも、私にとって幸せでしたね」